第3部
「事業家集団の手口 全容解明」(1)

 東京や大阪の主要駅前で「いい居酒屋知らない?」と声をかける若者の誘いに応じ、ついていった先は違法の疑いがある「マルチ商法」だった。毎日新聞は「事業家集団」の関係者や元幹部、元構成員らへの取材に成功。第3部は、入手した内部資料やメール、音声などを公表し、取材で解明した組織の手口や「トップ」の人物像など、全容を詳報する。

コロナ禍で街中の声かけに拍車
 東京の主要駅前で若者に「いい居酒屋知らない?」と声をかけられた記者(28)は、「事業家集団」の目的を明らかにするために、取材を続けた。複数の関係者によると、組織の構成員は東京、大阪を中心に数千人規模。特定の名称を持たず、「事業家集団」「環境」「アカデミー」「チーム」などと呼び名を次々と変遷させている。

 構成員は、経営者や起業家を意味する「ビジネスオーナー」を目指して活動している。組織は「ビジネスオーナーになるためには、一緒にがんばり、信頼できる『仲間』が必要だ」と説く。街中での声かけは「現場」と呼ばれ、構成員は駅前などに通って活動の輪を広げる「友達作り」に励んでいる。

 マルチ商法は通常、知人や友人など周囲を巻き込むことが多いが、組織関係者は「新型コロナウイルス感染拡大で対面による密な人間関係を築けなくなったのでは」と分析する。コロナ禍で、大規模な男女の交流イベント「街コン」など組織が勧誘の主戦場としてきた「現場」が縮小。より不特定多数に声をかける手法に転換したとみられる。

 街中で声をかけて連絡先を交換する手法は「キャッチセールス」に近い。ただ、そのまま喫茶店などで契約を結ばせることを狙っているわけではない。連絡先を交換した相手を飲み会、フットサル、バーベキューなどに誘い、人間関係を構築する。組織内ではそれぞれがあだ名で呼び合い、決して本名を明かさない。距離が縮まったとみたら、参加費がかかる組織の勉強会や経営セミナーにも勧誘。相手を少しずつ組織の価値観に染めていく。この工程は、組織内で「チームビルディング」と呼ばれる。

 構成員はセミナーなどで、「経営の『師匠』の下、50人の友達を作ると自分も店舗オーナーである『師匠』になることができ、年収が飛躍的に上がる」と説明を受ける。師匠に面会し、組織で活動することを約束してからが構成員だ。その際、顔写真や住所を提示して「オンラインサロン」に登録する。

 師匠からは、1日の行動を毎日、報告するようにと指示される。構成員になってしばらくすると、師匠から仲間と共同生活するシェアハウスへの入居と、転職を勧められる。集団生活は、マインドコントロールに適した手段だ。毎日新聞は組織関係者から情報を得て、東京都内で複数のシェアハウスを確認。建物の規模に比べて、出入りする人の数が明らかに多かった。JR山手線沿線や、大阪市福島区にシェアハウスが点在している。

対外的に小売店装う「師匠」の店
 組織の「友達作り」とは、ある会社の美容用…(以下有料版で,残り1062文字)

毎日新聞 2022/2/28 05:00(最終更新 2/28 05:00) 有料記事 2296文字
https://mainichi.jp/articles/20220227/k00/00m/040/226000c