ストッキングや靴下などを製造する青森県むつ市のアツギ東北が５月末で生産業務を終了することが決まって１カ月が過ぎた。主力のむつ工場の従業員は約５００人。市の就業人口は約２万５０００で、５０人に１人が職を失う計算だ。市は関係機関と連携し、再就職先の確保や企業誘致に向けた環境整備を急ぐ。
親会社のアツギが１月２０日、生産終了を決定した。新型コロナウイルス感染拡大による在宅勤務の普及や「爆買い」していた中国からの訪日客の減少で、ストッキングの需要が急減。２０２１年３月期の経常損失は１９億９５００万円に上り、人件費の安い中国に生産拠点を集約することになった。
むつ工場は最大で一時１２００人が勤務し、下北地方の民間企業では最も従業員の多い会社だった。同工場が２０年夏〜２１年春に約３３０人の希望退職者を募集した際、むつ公共職業安定所管内の有効求人倍率が大幅に下がるなど、地域の雇用を長年、下支えしてきた。
アツギ労組によると、むつ工場の約５００人のうち、パートと契約社員が９割以上を占める。パートは全員女性で、子育て世代も多い。
シフト制を採らず基本的に平日は全員が出社。従業員数が多いこともあり、子どもの体調不良などでも休暇が取りやすかった。苅田元気書記長は「安心できる環境で、５０年にわたって働く場として選ばれてきた」と話す。
アツギ労組は、正社員の本社や中国工場への転籍を求めるとともに、残務整理のためにパートを継続雇用するよう要請する方針だが、具体的な人数は見通せないという。
低い求人倍率、大量解雇でさらに悪化か
昨年１２月のむつ職安管内の有効求人倍率は０・９２倍で、県平均（１・１３倍）を大きく下回る。大量解雇が進めばさらなる悪化は避けられず、宮下宗一郎市長は今回の事態を「市政始まって以来最大の雇用危機」と位置付ける。
市は短期的な再就職支援と、中長期的な雇用の受け皿づくりの二本立てで対策に取り組む。職業訓練の支援や他業種とのマッチングを計画し、製造業などに限っていた誘致企業に対する助成金の対象を広げる条例案を今月、市議会に提案した。
宮下市長は「一人一人の雇用のニーズに寄り添えるかが課題」とした上で、「市と一緒に成長できる産業を誘致していきたい」と話した。
［アツギ東北］ストッキング製造大手のアツギ（神奈川県海老名市）の子会社。１９６６年、前身のアツギむつナイロンがむつ市に進出。アツギ白石（宮城県白石市）などと合併し、２００７年にアツギ東北が設立された。２０年にむつ工場で約３３０人の希望退職者を募集。２１年には野辺地工場を閉鎖した。むつ工場とともに盛岡工場も生産業務を終了する。
河北新報 2022年02月27日 06:00
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