ロシアによるウクライナ侵攻の行方が不透明さを増してきた。ウクライナ軍の抵抗が予想を超えるほか、侵攻前はロシアに配慮をみせていた欧州が一気に強硬に転じ、ロシア国内でも反戦運動が起きた。2日で侵攻が7日目を迎えるなか、内外で強まる3つの反発がプーチン大統領の前に立ちはだかっている。(モスクワ・小柳悠志、パリ・谷悠己)
◆「卑劣さに吐き気がする」
 「(先月24日の)侵攻初日は午前5時にミサイルを撃ち込んできた。ロシアの卑劣さに吐き気がする」。ウクライナ南部オデッサの海洋研究所で働く女性(40)が会員制交流サイト(SNS)を通じて取材に答えた。ロシア兵の上陸を阻むために海岸沿いには機雷が設置され、街に残る市民は徹底抗戦の構えという。
 米情報機関は「ロシア軍が侵攻した場合、キエフは2日以内に陥落する」と分析していたが、抵抗は予想を超えていた。背景には2014年のロシアによるクリミア半島併合で、電撃的な侵攻を止められなかった教訓がある。
 その後ウクライナ軍は、米欧から対戦車ミサイルの供与や軍事訓練を受け、戦闘力を高めてきた。今回の侵攻でも米欧から供与された対戦車ミサイルでロシア軍隊列を破壊し、市街地では市民が政府から渡された銃で応戦している。
 さらにロシア軍はウクライナ国内の商店で食料品を奪うなど、規律の乱れや士気の低さがうかがわれる。プーチン氏は27日に核戦略の部隊出動を示唆したが、作戦の遅滞に焦ったためともとれる。
◆金融と物流を絶たれ、深まる孤立
 米欧の制裁も厳しさを増している。大手銀行の国際決済システム「国際銀行間通信協会(SWIFT=スイフト)」排除に続き、ロシア機の欧州連合(EU)領空飛行も禁止に。金融と物流を遮断されたロシアの孤立は顕著になった。
 当初後手に回った米欧の対応が盛り返した原動力は、外交的解決を模索した末にプーチン氏に裏切られた独仏政権の危機感だ。
 大統領選を来月に控えるマクロン仏大統領は、プーチン氏との直接対話に期待を掛けすぎ、その外交姿勢が野党陣営から「失政」と攻撃された。昨年末に発足した独ショルツ政権も、経済関係を重視するあまり対ロ制裁で躊躇が見られ、国内外から猛批判を浴びた。
 仏はEU、独は先進7カ国(G7)の議長国でもある。ウクライナ以外の旧ソ連圏にも領土的野心をうかがわせるプーチン氏を勢いづかせた責任論が高まったことで、スイフト排除に慎重だった両国が容認に傾き、制裁強化の流れが一気に加速した。
◆広がる国内反戦デモ、6400人超拘束
 14年のクリミア併合は国民の愛国心をくすぐり、プーチン氏の支持率が30ポイントも跳ね上がった。しかし今回は同じスラブ民族の「兄弟国家」と呼ばれるウクライナと全面的に戦うことに反発する市民も多い。ロシア国内に広がるデモでは、これまでに6400人以上が拘束。米欧側の経済制裁で、預金の引き出しや決済ができなくなるとの不安も広がっている。
 軍事評論家のフェルゲンガウエル氏は「今回の戦争は終局やウクライナとの交渉の『落としどころ』が見えず、人々の不安をかき立てている」と、今回の危機の長期化を予想している。

東京新聞 2022年3月2日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/163082