講師の演奏分については支払いが必要との判断が先に出ていた。営利事業として教室を営む側の演奏だけに課金し、習う側の生徒は対象外とする結論は、バランスをとった妥当な司法判断といえるだろう。
日本音楽著作権協会(JASRAC)が音楽教室から著作権使用料を徴収する方針を掲げたのに対し、反対する教室の運営事業者らが提訴した。JASRAC側は講師と生徒、両方の演奏に使用料が発生すると主張していた。
最高裁は生徒の演奏は技術の習得・向上が目的で、課題曲の演奏はその手段にすぎないと指摘。生徒分まで使用料の徴収対象にはできないとの結論を導いた。
著作権料が著作権者にきちんと分配されることが、創作活動のインセンティブとして極めて重要なのはいうまでもない。JASRACはカラオケ店やカルチャーセンターなど、さまざまな場面で使われる楽曲について使用料徴収に力を入れてきている。
他方で課金範囲が広がりすぎれば、逆に文化の振興を損なう事態もありうる。愛好家の裾野を広げる方が著作権者にとってもプラスとの考え方も根強い。自ら創った楽曲を教育目的なら無料で使ってほしいと考える音楽家もいる。
社会的、経済的側面を総合的に考慮し、コンテンツの利用と保護の釣り合いをどう取るのか。今回の訴訟はそんな問いを投げかけてもいる。JASRACと音楽教室側は今後、具体的な支払額などを協議するとみられる。音楽文化の発展という目的は同じはずだ。建設的な議論を望みたい。
ネットの発達や社会の変化に伴って著作権を巡るテーマは多様化し、身近にもなっている。著作権について改めて考えを深める契機にもしたい。
日本経済新聞
2022年10月26日 19:00
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK262FX0W2A021C2000000/