――論文の原題は"How Fast Are Prices in Japan Falling?"ですが、ご執筆の問題意識をお聞かせ下さい。

日本では1990年代半ば以降、デフレ状態が続いています。このことが日本のみならず世界経済にとっても大きな問題なのはいうまでもないのですが、その程度を示す消費者物価指数(CPI)を見ると、下落率は毎年1%前後で、最も下落率の激しい時期でも2%程度にとどまっています。

先進国のデフレの事例は極めて限られているのですが、代表的な例である1930年代の大恐慌期の米国では、同じデフレといっても年率7%という大幅な物価の下落が起きました。これに比べると、現在の日本のデフレは、緩やかな物価下落が非常に長期間続いているといえます。このように、10数年にわたって日本の景気が悪いといわれながらも、物価下落の速度がそれほど急激ではないことについては、日本の国内のみならず海外の研究者や実務家も強い関心を持っています。

この理由については、政策担当者や研究者などにより長年に渡り議論が重ねられてきており、色々な考えがあります。その中には、「日本の総務省が作成しているCPIが正確に計測されていないために、デフレ率が低く見えているに過ぎない」といった、日本の物価統計そのものの信頼性について懐疑的な見方もあるのです。このような傾向は、特に欧米で強いように思います。

こうしたことから、日本の物価は緩やかな下落にとどまり、緩やかなデフレという不思議な現象を起こしている原因が、本当に統計そのものの問題であるのか、それともそれ以外の要因なのかを明らかにしたいと考えました。