「事件の直後、他の父兄には、笑いながら『雄太くん、栄利先生にやられたんやって?
でも、警察に通報したらサオちゃんのオリンピックがヤバいよ』などと、暗に黙るように言ってくる人もいました。
ここ一志で、吉田家に逆らうなんて考えられないことです。私自身、とにかく沙保里さんの五輪に悪影響だけは与えたくない、という思いで頭がいっぱいでした。
自分の息子のことよりも、吉田家をかばうことを優先してしまったのです」
その後、11月30日に開かれた道場の保護者会では、栄利氏とその母である幸代氏が姿を見せた。
菅原さんが驚愕したのは、その場で幸代氏に詰め寄られたことだ。
「あんた、まだグジグジ言うとんの?」
「お父さん(栄勝氏)もそういうことあったけど、一度も謝らへん」
さらには、当の栄利氏も苛立ちを隠さずこう言い放ち、席を立った。
「今まで指導中に手を上げたことは何回もあるけれど、悪いとは思っていない。勝つためやったら何でもする。
そんなに言うんやったら俺、責任とって監督辞めるわ」
五輪が間近に迫ったタイミングで、吉田家の人々から投げつけられたこれらの言葉が、菅原さん一家にとって重いプレッシャーとなったことは言うまでもない。
私たちが声を上げたせいで、伝統と実績のある一志ジュニアが旗を下ろすことになるなんて、あってはならない―― 。菅原さん親子は、道場を去るほかなかった。