特殊な工法で育てた「タケノコ」 一宮「ツインアーチ138」の建設秘話
10/16(木) 5:05中日新聞Web
建設当時の秘話を語る沢村さん=一宮市の138タワーパークで
今春、開業から30周年を迎えた一宮市の展望タワー「ツインアーチ138」。
全長138メートルで、交差する二つのアーチに宇宙船のような銀色の展望室を取りつけた近未来を思わせる形だ。
設計を手がけた伊藤建築設計事務所=名古屋市=の沢村喜久夫さん(64)に日本初となる「アーチ式タワー」の建設秘話を聞いた。 (児島恵美)
駆け出しの建築士だったころに設計や工事管理で携わった沢村さん。
「高層タワーの大敵は風。風が強い日は今でも心配」。
今も通勤で利用する名鉄犬山線の窓辺からわが子のように見守る。
ツインアーチ138は、1987年に開園した国営木曽三川公園の目玉として建てられた。総工費は約46億5千万円。
名称は市内の真清田神社の門前で開かれ、街の起源となった定期市「三八市」に由来する。地上100メートルの展望階からは岐阜城、伊吹山を一望できる。今も年間約10万人以上の来場がある。
80年代以降、全国各地で展望タワーの建設が相次いだ。当時の主流は東山スカイタワー(名古屋市)のようなペンシル型。
ツインアーチの設計コンペに参加した伊藤建築設計事務所は、いまだかつてないタワーを造ろうと奔走。
日本初のアーチ式タワーを提案した。
採用された同社の設計案では、高さの違う2本のアーチと展望台につながるエレベーター塔で、木曽川の雄大な流れを表現。
アーチの脚は90メートル開き、どっしりと存在感を放つ。
事務所では、社員が徹夜で設計図の細かい調整を続けた。
150枚以上の手書きの設計図が残されている。
建設では、当時珍しかった「タケノコ工法」が用いられた。
地上でタワー頭部と展望室を組み立て、油圧ジャッキで持ち上げながら足の部品を19回に分けて継ぎ足す。
最後に基礎部分を地中に埋めて完成。
危険な高所作業を減らすことができる工法だ。
「現場でタワーが育っていくのを見るのが楽しかった」と沢村さん。
つなぎ目はツインアーチの「成長」の証しだ。
アーチの足は正面のロータリーに対してやや斜めに立っている。
足が向いているのは、20キロほど南に位置する名古屋テレビ塔。
テレビ塔に向く面積を最小限にして、岐阜県側の電波障害を防ぐ工夫だという。
ツインアーチは、展望階と地上の両方で楽しめる。
沢村さんに勧められ、アーチ北側の芝生に寝転び、真下から見上げてみた。
アーチに包まれて展望階に自分が吸い込まれていくような不思議な感覚を味わえる。
平日でも多くの人でにぎわうツインアーチ。
「完成時よりも、市民に愛される現在の方がうれしい。
30年かけて受け入れられたのでしょう」と沢村さん。一宮のランドマークとして街の未来を見守る。
