湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

5千億円投入しTSMC誘致も、日本の半導体シェアは上がらない…経産省の自己矛盾:
https://biz-journal.jp/2022/03/post_282556.html

2022.03.06 06:00 文=湯之上隆/微細加工研究所所長

筆者は2021年6月1日に、衆議院に半導体の専門家として参考人招致され、その意見陳述で、過去の政策について「経産省、革新機構、政策銀が出てきた時点でアウト」である歴史を述べ、経産省の半導体政策を全否定した。さらに、その意見陳述では、「地域別売上高比率が4〜5%しかない日本にはTSMCは来ない」ということも断言した(図1)。

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ところが、21年10月14日、台湾積体電路製造(TSMC)が日本政府の誘致を受け入れ、日本で初となる工場を22年から建設し、24年末に量産を始めると発表した(21年10月14日付日本経済新聞)。そして、同日夜に記者会見した岸田文雄首相は、TSMCの総額1兆円規模の大型民間投資などへの支援を経済対策に織り込むと表明した。

 このように、筆者が衆議院で断言した予測は見事に外れ、TSMCが熊本に22/28nmの半導体工場を建設することになってしまった。その結果、筆者はSNS上で「嘘つきは死ね」と批判を受け、一時期は精神的なダメージによって仕事が手につかず、寝ることができなくなったほどだった。

 しかし、なぜTSMCが日本に工場を建設するのか? このことを考え続けていたら、あるとき、その謎が解けた。そして、その内容を21年12月3日、本連載に『助成金5千億円、台湾TSMCの日本誘致は愚かだ…日本の半導体産業は再興しない』という記事として寄稿した。

キーワードは28nm
 TSMCは20年から世界最先端の5nmの量産を開始しており、今年22年は3nmの量産を立ち上げる。さらに24年には2nmの量産を行う。これらを同時並行で進めており、TSMCは最先端の量産、試作、R&D(研究開発)でアップアップの状態である。

 そのようななか、コロナ禍でリモートワークやネットショッピングが急拡大し、各種電子機器や電気製品の需要が急増した。そして、これらの製品には28nmの半導体が搭載されており、世界的に28nmが足りない状態を招いた。

(略)

自己矛盾に陥っている経産省の半導体政策

 経産省は、今のままでは日本半導体産業のシェアが30年に0%になってしまうという危機感を持った。そこで、シェアの低下を止め、上昇に転じさせるために政策を立案した。その目玉が、半導体工場の新増設に補助金を投入する改正法の立案だった。この改正法は21年12月20日、参議院本会議で与党などの賛成多数で可決し、成立した。その改正法により、補助金は国立研究開発法人の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に設置する基金から複数年にまたがって拠出する。その基金は、21年度補正予算でまず6170億円を計上した。

 この改正法による補助金の投入対象となっているのは、TSMC熊本工場、マイクロン広島工場、キオクシア四日市工場・北上工場である。ところが、本稿で分析した通り、補助金を投入しても、TSMC熊本工場の月産5.5万枚の20〜30%しか日本のシェアには貢献できない。また、マイクロン広島工場の貢献度は厳密には0%であり、さらにキオクシア四日市工場・北上工場では、その50%しか日本のシェアの増大に貢献しない。

したがって、経産省が立案した政策に従って、日本政府が補助金をTSMC熊本工場、マイクロン広島工場、キオクシア四日市工場&北上工場に投入しても、世界市場における日本半導体産業のシェアの向上は、1%あるかないかだろう。

(略)

※省略していますので全文はソース元を参照して下さい。