令和6年の詐欺に関する警察庁発表によると、特殊詐欺、SNS型投資詐欺、ロマンス詐欺の合計被害額は約1990億円と、膨大な金額が詐取されていることが分かった。

政府は、2024年12月17日、犯罪対策閣僚会議を開き、いわゆる「闇バイト」の主犯格逮捕のために、警察の捜査員が身分を偽って闇バイトに応募する「仮装身分捜査=雇われたふり作戦」を早期に実施することを明言した。

この捜査対象は、インターネット等を通じて実行者の募集が行われていると認められる強盗、詐欺、窃盗、電子計算機使用詐欺等の犯罪であり、いわゆる「闇バイト」に捜査のメスを入れるというものである。

仮装身分捜査は犯罪抑止のための「攻めの対策」
自民党ホームページによると

「警察庁は1月23日、仮装身分捜査の実施要領を策定し、全国の都道府県警察本部長に通達しました。実施要領では、対象となる犯罪を、インターネット等を通じて実行者の募集が行われていると認められる強盗、詐欺、窃盗、電子計算機使用詐欺等とし、『他の方法では犯人を検挙し、犯行を抑止することが困難と認められる場合に、相当と認められる限度において実施する』」

としている。

仮装身分捜査は、闇バイトの実行役に捜査員が匿名で紛れ込むことから、当該犯罪の被害を未然に防ぐことが可能となるため、一定の抑止効果が期待できる。

ただ、一方で、闇バイトを募集する「匿名・流動型犯罪グループ=トクリュウ」側も、募集のリスクを考え、警戒するはずだ。闇バイト募集は、より一般の求人に紛れ「高額報酬」や「即金」等とは謳わず、容易には判別できないような工夫を凝らしてくる可能性がある。

何れにしても、政府の仮装身分捜査は、トクリュウによる闇バイトを使嗾した犯罪抑止のための「攻めの対策」といえる。

闇バイトに行かせない、再犯させない「守りの対策」
仮装身分捜査が、闇バイト対策の俎上に上ってから二か月以上が経過した。しかし、闇バイトは相変わらず行われており、攻めの対策のみならず、守りの対策も充実させる必要がある。守りの対策とは、「闇バイトに行かない、行かせない」ための対策である。

闇バイトに応募したことがない青少年が闇バイトに行かないように啓発することは不可欠である。しかし、保護司や法務省就労支援事業所長を経験し、更生保護の現場を知る筆者が危惧するのは、既に逮捕・起訴され、刑事施設等に収容された者の再犯である。

闇バイト実行犯の人手が不足する理由
「詐欺においてもそうですが、実行役は逮捕されることが前提の『捨て駒』としての存在です。そのため実行犯の人手不足の状況が年中続き、SNSには闇バイトを募集する投稿が絶えません」という報告がある(東洋経済オンライン 2024年10月27日)。

その理由は、闇バイトに加わる(思慮の浅い)者が、逮捕・起訴され、刑事施設に収容されていることが、実行犯が人手不足である理由のひとつではなかろうか。

少し前のデータだが、過去に保護観察や少年院送致、あるいは刑務所に入所した30歳未満の「再入者率=再び刑事施設などに入った者の割合」は60.8%であり、他の年齢層に比べると、最も高いことが見て取れる(令和5年版犯罪白書 5-3-3図「入所受刑者の保護処分別構成比」)。

特殊詐欺等の闇バイトで実刑を受け、刑事施設に送致された者の刑期が、おおむね3年から5年と考えると、刑期を終えた者が、近い将来、再び闇バイトに加わる可能性は否定できない。

令和6年版「再犯防止推進白書」を見ると、「(刑務所)再入者率は、近年58~59%台で推移していたところ、2022年(令和4年)は56.6%と前年(57.0%)よりも0.4ポイント減少した」とあるが、過半数が刑務所等に戻っている現状は予断をゆるさない。

つづき
https://gendai.media/articles/-/147510