自民党の高市早苗前経済安全保障担当相が会長を務める党組織「治安・テロ・サイバー犯罪対策調査会」は20日、政府にスパイ防止法制定の検討を求める提言案を取りまとめた。月内にも石破茂首相に手渡す。参院選公約に盛り込むことも目指す。保守層に訴求力のある政策で岩盤支持層の支持を取り戻す狙いがあるが、実現への道のりはまだ描けていない。

諜報部門の体制や予算の強化も盛り込む

提言は、治安悪化や海外の脅威に対応する「治安力の強化」を掲げ、「諸外国と同水準のスパイ防止法の導入に向けた検討も推進すべきだ」と訴えた。情報分析能力向上のためにインテリジェンス部門の体制や予算の強化も求めた。

高市氏は20日の調査会の会合で、国防に関する情報を収集し、外国に引き渡した者に厳罰を課すという米国の例を紹介した。

また、スパイ防止法がある国同士では拘束されているスパイの交換が行われているが、日本では外国人スパイを取り締まれないと指摘。「スパイ防止法がないために、反スパイ法で拘束された邦人が中国にいても、スパイの交換という手段が使えない」と法整備の必要性を強調した。「本気で議論を始めなければならない段階だ」と語った。

提言はスパイ防止法のほか、安倍晋三元首相の銃撃事件で注目を集めた、特定の組織に属さず単独でテロ行為に及ぶ「ローンオフェンダー」対策にも言及した。爆発物の製造に使われる化学物質の購入者の本人確認や購入目的の確認の徹底を販売業者に働きかけるよう政府に求めた。

検討されながら実現しなかった過去

内閣支持率の低迷が続く中、2カ月後に想定される参院選に向け、保守層へのアピールは急務だ。自民は参院選公約に関し、外国人就労者や観光客の増加に伴う迷惑行為と犯罪への対策を盛り込む方針を固めている。調査会は、スパイ防止法制定も公約に加えるよう主張していく考えだ。

ただ、スパイ防止法制定は過去にも検討されながら実現しなかった。昭和55年に元陸上自衛官が旧ソ連のスパイ活動を行っていた実態が発覚した事件を受け、自民は60年6月、議員立法でスパイ防止法を国会提出した。野党から「国家の秘密」の範囲があいまいだと猛反対され、一度も審議に入れないまま、60年末の臨時国会で廃案となった。今回は提言を出してアピールするだけでなく、野党を巻き込む具体的な動きが求められている。(長橋和之)

https://www.sankei.com/article/20250520-ENRFXYT42BJSZDMLGBUEOM7RSA/