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毎日新聞 2021/11/12 11:59(最終更新 11/12 12:30) 1623文字




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謝罪会見を終えて退席する川勝平太知事。「御殿場市民の心を傷つけた」と語り、コシヒカリ発言を撤回した=静岡県庁で2021年11月10日、山田英之撮影

 参院補選の応援演説で静岡県の川勝平太知事が御殿場市について「コシヒカリしかない」と発言した問題で、川勝知事は10日夜、県庁で記者会見して「御殿場市民の心を傷つけた。不快な思いをさせた」と語り、発言を撤回した。知事としての公務ではなく、選挙の応援弁士としての演説だったため「説明すれば分かるという思いでいた」と弁明したが、「誠に申し訳なく思っている。ごめんなさい」と謝罪した。【山田英之】

 記者会見で川勝知事は「御殿場は県の重要なまち。我々と一体。御殿場を自分のことのように思っている方がたくさんいる。同じようにおわびしないといけない。激しい選挙戦での発言を撤回する」と述べた。



 発言の問題点について「選挙は戦い。どちらかを選ばなければならない。『私は差別を一切しない』と公務で言っていることと、選挙戦での難詰(厳しく非難すること)は両立しない。知事の発言として聞くとショックを受けるのは分かる。自戒しないといけない。知事として、そんな考えを持っていない」と反省した。

 川勝知事は10月の参院補選で初当選した山崎真之輔氏を支援。選挙戦で初めて本格的に候補者の応援をした。「御殿場のみなさんをやゆしたり、卑下したりすることを考えたこともなかった。本当につらい。公務と学問しかしてこなかったが、政務に一歩踏み出し、1回目で大失態だ」と話し、今後の選挙応援は「人物次第」とした。



 川勝知事は9日の臨時記者会見で「誤解をしっかり解いておきたい」と釈明した。しかし、会見を受けて勝又正美・御殿場市長が「公の場で謝罪してほしかった」とコメントしたことを知って10日夜、急きょ御殿場市役所を訪問。勝又市長に謝罪した。

 発言への多くの批判に川勝知事は「傷を癒やすのが私の仕事。それと逆のことになり、残念に思っている。説明したつもりが、言い訳と受け取られ、これはえらいことになったと思った。御殿場市民の方々を傷つけて申し訳なく、素直に陳謝した」と語った。



 県広聴広報課によると、10日午後5時15分までにコシヒカリ発言に対する意見は電話やメールなどで797件寄せられた。「9日の記者会見は謝罪になっていない」「県民として恥ずかしい」「知事に反省してほしい」など大多数が批判的な意見だという。

信頼回復には長い時間かかる
 強い発信力の副作用として、川勝平太知事は失言で何回も物議を醸してきた。しかし、今回のコシヒカリ発言はこれまでの失言と質が違う。県と御殿場市に上下関係はないけれど、強い権限を持つ知事が御殿場市民を侮辱したと受け取られたからだ。



 リニア中央新幹線静岡工区を巡って、川勝知事が首相や国土交通省、JR東海に対して強い言葉で県の主張を語っても、多くの県民は「よく言ってくれた」と賛同し、知事選で4選を果たす原動力にもなった。

 参院補選の応援演説では、御殿場市と浜松市の人口や農産物の多さを比較して自民党の元御殿場市長を非難した。川勝知事はあくまでも特定の候補者を批判するための発言だったと説明したが、人口や農産物の少ない市や町を下に見ている疑念を拭えない。発言を撤回しても後遺症は消えない。

 私の出身地・焼津市の候補者を批判するため、「あちらは魚しかない。それしか知らない人間、そんな人間が県全体の参院議員になってどうするんですか。ダメです」と演説されたら、良い気持ちになるわけがない。そんなことを言った人が市民の信頼を取り戻すには長い時間がかかる。撤回してもすぐに許せないだろう。

 川勝知事が選挙で特定の候補者を応援すること自体、私は悪いことだと思わない。影響力を考えれば、対立候補を激しく非難しなくても、支援する候補者をほめるだけで目的を達成できるのではないか。参院補選で「県民党の幹事長」と称賛していた山崎真之輔参院議員の女性問題が報道された後、川勝知事が「もう応援することはありません」と言っただけで、気持ちは十分伝わったのだから。【山田英之】