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毎日新聞 2021/12/19 10:00(最終更新 12/19 10:00) 有料記事 2842文字




 スパイ事件を担う外事警察は多くを語らない組織だ。たとえスパイを逮捕しても、発表するのは必要最小限の情報にとどまる。しかし、そんな外事警察が変わり始めている。経済安全保障の観点から、捜査の「手の内」を企業などに熱心に説明するようになったのだ。新しい外事警察の姿を追った。

アウトリーチ活動
 「いまや企業情報は国益と言っても過言ではない」

 11月30日、東京都千代田区内のビルの一室で、警察庁外事課の吉田知明氏がオンライン形式の説明会を開いていた。話す相手は、半導体関連産業の業者でつくる日本半導体製造装置協会の会員。この日はパソコンの画面越しに約40社が参加した。

 警察庁は2020年10月に「アウトリーチ活動」を進める専従班を設置。「アウトリーチ」は「手を差し伸べる」という意味がある。専従班は経済団体や企業などに情報流出事件の手口を解説する取り組みをしており、相談も受け付けている。

 21年12月初旬までに延べ15団体に対して説明。400を超える企業・大学が耳を傾けた。吉田氏は経済安全保障対策官として、この専従班のとりまとめ役を担っている。

ロシアと中国の情報収集活動の違い
 説明会で吉田氏はスパイ活動の現状を分かりやすく解説していった。吉田氏によれば、旧ソ連のスパイとして第二次世界大戦時に活動したゾルゲのように、かつては政治・軍事の情報収集が主戦場だった。しかし、「現在、非常に大きなウエートを占めるのは(民間企業の)技術情報だ」と吉田氏は強調する。

 その上で、今も国家ぐるみで企業などから技術情報を取ろうとしている国として、ロシア、中国、北朝鮮の3カ国を挙げた。このうちロシアと中国の手法について、諜報(ちょうほう)の世界で伝わる例え話をした。

 「いま砂浜にいるとイメージしてください」。吉田氏は呼びかけた。一粒一粒の砂が秘密情報だとすれば、ロシアは秘密裏に計画を立て、夜中に潜水艦で海岸に接近する。そして気づかれないように砂を瓶に入れて持ち帰る。訓練を受けたプロの手法を活用するところにロシアの特徴がある。

 一方、中国は…

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