ロシア陸軍の主力戦車T-72B3Mが、ウクライナ軍に次々と撃破されています。原型のT-72戦車はかつて「やられメカ」のイメージが定着していましたが、いまなぜこの戦車が多く残り、そしてなぜ、やられまくっているのでしょうか。

撃破されたロシア戦車の25%を占めるT-72B3M

 2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから、1か月が経過しました。

 ウクライナ軍と民兵の激しい抵抗により、ロシア軍が受けた損害は日を追うごとに増加しています。その中でも、数のうえではロシア陸軍の主力戦車と言える、T-72B3Mの損害数の多さが目を引きます。

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撃破されたロシア軍のT-72B3M戦車(画像:ウクライナ軍参謀本部)。

 各国の軍事情勢を分析しているオランダの「Oryx Blog」は、開戦以来、公開情報を基にロシア、ウクライナ両軍が喪失した兵器のリストを更新しています。3月22日付の同ブログは、開戦から1か月間で撃破されたロシア陸軍の戦車の総数が109両で、うち25%強にあたる28両がT-72B3Mであると報じています。

 T-72B3Mは、1972(昭和47)年から旧ソ連陸軍に配備が開始されたT-72戦車の改良型です。

 T-72は当時の西側諸国の主力戦車の主砲であった105mmライフル砲よりも強力な125mm滑腔砲を装備し、また世界に先駆けて、鋼鉄にセラミックやガラス繊維などを挟み込んで強度を高めた複合装甲を車体前面に採用するなど、当時としては極めて優秀な戦車であったと言えます。

 しかし1991(平成3)年に起こった湾岸戦争で、イラク陸軍のT-72が、アメリカのM1A1エイブラムスやイギリスのチャレンジャー1との戦車戦でワンサイドゲームと言っても過言ではないほどの大惨敗を喫してしまい、これ以降T-72には「やられメカ」というイメージが定着してしまいました。

新型はあるけど… 「やられメカ」多く残るワケ
 イラク陸軍のT-72はソ連陸軍のT-72よりも意図的に性能が落とされた、いわゆる「モンキーモデル」であり、またイラク陸軍の戦術も決して巧みとは言えませんでした。それを考慮しても、M1A1とチャレンジャー1に敗北した湾岸戦争で定着した「やられメカ」のイメージはあまりにも強く、その後T-72は輸出もふるわなくなってしまいました。

 現在も兵器はロシアにとって重要な輸出品ですが、経済が混乱を極めていた1990年代前半のロシアにとっては特に、主力戦車であるT-72のイメージ悪化と、それに伴う輸出の不振は、看過できるものではありませんでした。このためロシアはT-72の攻撃力、防御力、機動力を大幅に強化したT-90戦車を開発することとなりました。

 T-90は高性能のわりに価格が安いことから、輸出市場で成功をおさめ、インドでのライセンス生産分も含めれば、3000両以上の発注を獲得しています。T-90は輸出を前提に開発された戦車ですが、ロシア陸軍も400両近くを導入しています。

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ロシア軍も配備するT-90戦車。防衛装備展示会「IDEX2015」(於アブダビ)にて(竹内 修撮影)。

 ただ、ロシア陸軍はT-90の調達よりも、T-72のT-72B3Mへの改修を優先しました。T-72B3Mは既存のT-72の能力を極力T-90に近づけるというコンセプトに基づいた戦車で、既存のT-72戦車を活用できたためです。

 こうしてロシア陸軍が大きな期待をかけたT-72B3Mは、冒頭で述べたように、現時点で損害の大きさが際立つ結果となっています。

T-72B3Mは、いかにしてやられているのか
 T-72B3Mがどのような攻撃によって撃破されたのかは明らかにされていませんが、ウクライナに派遣されているロシア陸軍の戦車が現地で急造された、二重構造の鋼鉄製と見られる天蓋を装着していることから、恐らく装甲車両で最も防御力の弱い砲塔や車体の上面を攻撃する「トップアタック」能力を持つ対戦車ミサイルで撃破されたT-72B3Mも少なくないものと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。