https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98398.php
ロシア軍戦闘機の残骸 Press service of the State Emergency Service of Ukraine/Handout via REUTERS

<なぜ通信がウクライナ側に「筒抜け」になっているのか。あまりにお粗末な情報伝達体制がロシア軍の命取りになっている>

ロシアのウクライナ侵攻開始から1カ月が過ぎたなか、ロシア軍の情報伝達システムが予想を超える度合いで機能不全に陥っている。

そのため、現地の部隊はオープンなネットワークを利用したシステムに頼るしかなく、通信がウクライナ側に「筒抜け」になっていると、欧米の当局者や専門家らは指摘する。

複数の米当局者や専門家のみるところ、ロシアは1カ月以上に及ぶ地上戦に臨む態勢が整っていなかった。

ウォロディミル・ゼレンスキー大統領率いるウクライナの現政権を即座に転覆できると考え、欧州2位の国土面積を持つ同国をカバーする通信体制を準備していなかった。

ウクライナ軍はその穴を突き、通信妨害や戦略に関するメッセージへの干渉を行っている。ロシア軍将官の現在地をピンポイントで特定して狙撃する事例も発生している。

「ロシアはここまで厳しい軍事行動を、これほど長期間、これほど多様に展開する準備が万全でなかった」と、米国防総省のある高官は話す(戦況に関わる発言のため、匿名を希望)。

「機密扱いでない通信手段の使用が大幅に増えている。機密通信の能力の強度が、どういう訳かあるべき水準に達していないからだ」

この高官によれば、空軍と地上部隊の連携や戦地でのリアルタイムの決定にも、ロシアは苦闘している。

部隊間の情報伝達を阻むもう1つの要素が、ロシア軍による破壊的な爆撃だ。

複数の元米当局者や専門家が語ったところでは、ウクライナ東部の主要都市ハリコフ付近では、スマートフォンを暗号化する上で欠かせない3G・4G基地局も破壊され、ロシア軍は機密情報をオープンな状態で送信せざるを得ない。

「ロシアは通信インフラをここまで破壊するつもりはなかった」。ワシントンのシンクタンク、ディフェンス・プライオリティーズのロシア・情報戦争専門家で、米国家安全保障会議(NSC)の元ロシア・バルト諸国・カフカス諸国担当責任者であるギャビン・ワイルドはそう指摘する。

「一気に侵攻して、ウクライナをほぼ無傷で掌握する事態を望んでいたため、多くの重要インフラを完全に破壊したくはなかったはずだ」

広がる混乱と膨らむ死者数

現場指揮官の不在も、情報伝達の問題に拍車を掛けている。

CNNが先日報じたところによれば、ウクライナに侵攻した十数万人規模のロシア軍を統括するのは誰か、米当局者は特定できていない。

大規模な侵攻軍の内訳は徴集兵、チェチェン人部隊、主にウクライナ東部ドンバス地方で戦闘に従事するロシアの民間軍事会社ワーグナー・グループの部隊など、さまざまだ。

侵攻前、ウクライナ国境に集結していたロシア軍兵士は戦闘のために隣国に送られるとの通達をほとんど、あるいは全く受けていなかった。

そのせいで混乱が広がり、情報伝達体制はさらに悪化した。

「侵攻の24時間前に告げられたため、各部隊の配置や連携関係を把握することができず、暗号化通信を可能にする無線の暗号化キーも交換できなかった。従って、無線機を使用するために、オープンシステムでやり取りする結果になった」と、英シンクタンク、王立統合軍事研究所(RUSI)のジャック・ワトリング地上戦担当研究員は言う。