ウクライナ東部を徹底攻撃するなど長期戦の構えを見せるロシアだが、自国の経済は崩壊寸前だ。国内消費の大幅な落ち込みや富裕層マネーの資金逃避が進み、若者の「頭脳流出」も止まらない。ウラジーミル・プーチン大統領の20年余りの長期政権の基盤ともなった経済の繁栄は、プーチン氏自身の手で終焉(しゅうえん)しつつある。



国際金融協会(IIF)は8日に公表したリポートで、ロシアの経済成長率が今年が15%減、来年も3%減になると予測した。ロイター通信が報じた。

2月のウクライナ侵攻開始以降、西側諸国が経済制裁を実施したほか、仏自動車大手ルノーや、米マクドナルド、スターバックスなど西側企業が相次いで撤退。輸出も減少し、ITや医療、金融などの分野で高度な技術・知識を有する若年層が数十万人規模で「頭脳流出」しているという。

内需の落ち込みは深刻だ。象徴的なのは、4月の新車販売台数が前年同月比78・5%減となったことだ。露経済紙「コメルサント」(電子版)は、財務省のデータをもとに消費を反映する付加価値税の4月の税収が前年同月比54%減となったと報じた。

新興国経済に詳しい第一生命経済研究所の西濱徹主席エコノミストは「ロシアは貿易統計の公表をとりやめるなど、実態をつかみにくくなっている。外資の撤退による雇用の悪化や、物価上昇による購買力の低下で家計部門は厳しく、景気の下押しにつながる材料は山積している。消費が落ち込むと企業も雇用や投資が難しいという悪循環になっている」とみる。

プーチン氏は「欧米の経済制裁は失敗した」と主張してきた。原油や天然ガスなどのエネルギー輸出で過去最大の経常黒字を記録し、一時は暴落したルーブルは反発した。だが、国内経済の疲弊は隠しきれない。

侵攻直後に政策金利を20%まで引き上げたロシア中央銀行はその後、引き下げを繰り返した。今月10日には9・5%とウクライナ侵攻以前の水準に戻すことを決めるなど景気テコ入れに必死だ。

レシェトニコフ経済発展相も国営ラジオ・スプートニクの番組で、「需要危機」にあり、人々や企業が十分な資金を費やしていないとの認識を示した。

「経常黒字でマクロ的には『カネ余り』の状態にあるが、ロシアは金融機関を介して市中に資金を回す金融仲介能力が乏しく、実体経済に還流しにくい」と西濱氏。

欧米は経済制裁を強めている。欧州連合(EU)はロシア産原油を年末までに約9割禁輸することで合意したが、新たにロシア産原油を運搬する船舶の新規保険契約の即時禁止も打ち出した。ロシアの稼ぎ頭である原油が〝海上封鎖〟される恐れがある。

西濱氏は気になる動きとして、「トルコの1~3月の国内総生産(GDP)はロシア人富裕層の不動産投資によって押し上げられている。ロシア人富裕層が国内に資金を留めず、海外に逃避する動きを活発化させている可能性がある」と指摘する。

ウクライナ侵攻をめぐっては、国内でも「長期化」するとの意見が多い。露独立系調査機関「レバダセンター」が5月に実施したロシア国内の18歳以上約1634人を対象とした世論調査で、「特別軍事作戦」がいつまで続くかとの問いに「6カ月以上から1年」または「1年以上」とした回答は計44%だった。

ロシア事情に詳しい筑波大名誉教授の中村逸郎氏は「国内でも政府の歳入不足が長く続き、戦費を増税で切り抜けるのではないかとの見方もあるが、しわ寄せを受ける国民の我慢も限界に近くなるだろう」と分析する。

前出のIIFのリポートでは、今回の侵攻を機に15年にわたるロシア経済の拡大が、消し飛ぶとの見方を示している。

中村氏は「プーチン政権の初期には、天然資源の高騰によりロシアが初めて消費文明を享受した時期もあった。IT分野の革新創出などを目指した経緯もあるが、ウクライナ侵攻で『新しい経済』の創出は不可能になった。軍事大国という柱も崩れたプーチン氏はレガシー(遺産)を築けず、自ら首を絞めた形だ」と語った。

https://www.zakzak.co.jp/article/20220614-2RWHUX3FXZPYFE7JSILSF3AVCI/