兵庫県明石市・泉 房穂市長。9年連続で人口増加を実現し、約20年ぶりに過去最高人口を更新させた

その5つとは「18歳までの医療費完全無料」「公立中学校の給食無料」「第2子以降の保育料無料」「公共施設の利用料無料」「満1歳までのおむつ無料(自宅へ定期的に配送)」。しかも、そのいずれにも所得制限を設けていないことが大きな特徴だ。

「どの子供も見捨てません。すべての子供に等しく対応します」と語気を強める様子に心を打たれる人が後を絶たない。そんな泉 房穂(ふさほ)市長に信念を直撃した!

■政策の答えは街と市民にある
――2011年に明石市長に就任され、2年後の13年から人口は上向き、17年8月には過去最高人口を更新。やはり「5つの無料化」の影響が大きいのでしょうか?

泉 明石に来る人のパターンはほぼ決まっていて、「結婚して子供がひとりいる30歳前後の賃貸住宅で暮らす夫婦」が多いんです。結婚して出産し、育児の大変さや出費の苦しさを強く感じているところで「ふたり目どうする?」って話になったときに、「そうだ、明石に住もう」ってなってもらう。

明石は土地代も安いのでマイホームを買う人も多い。その上、いろいろ無料となったら引っ越そうってなる。明石市は全国で一番人口が増えている中核市なんです。

――周りの市の反応は?

泉 「5つの無料化」を打ち出した当初は「あんなの変わり者の市長だからできたことで普通は無理」って言われたんですけど、今年7月1日から県内の隣町もマネして導入し始めましたよ。「できるんやん!」ってツッコミたくなる(笑)。私ね、よく挑戦的って言われるんですけど、石橋を叩いて渡る慎重派で、完全に読み切ってやってるんです。

――どのようにして読み切っているのでしょうか?

泉 市長になった最初の仕事に、明石駅前の再開発があって。当初の予定では、新しい駅前ビルの中に入れるテナントで有力だったのはゲームセンター、パチンコなどの床単価が高いものだったのですが、私はそれがふさわしいと思えず、全市民へ改めてアンケートを行なったんです。

そしたら思っていたとおり、図書館と子育て支援施設を置いてほしいという声が1位、2位だった。その声に応えて、4階には図書館、5階、6階には大型遊具のある遊び場や、こども健康センターを入れました。そういった行政目線ではない市民目線での街づくりが重要だって思っています。

国の官僚とかって、赤本の過去問を解いたりするお勉強が得意な人が多いから、過去問の数字を入れ替えた問題は解けるけど、新しい問題が苦手なんですよ。今回のコロナ禍なんて初めてやん。そういう問題を解けって言われたら真っ白になっちゃうワケよ。

私は過去問を探しません。何をするかっていったら、街に出るんです。商売人のおっちゃんに「どうでっか?」って話す。そしたら「客が来ないからテナント料が支払えなくて大変や」って。

「4月25日までに振り込まないと2ヵ月滞納で出ていかなあかん」って言うから「ほな、なんとかするわ!」って言うたんが4月10日くらいで、2週間後の4月24日にホンマにお金を振り込んだからね。臨時市議会立ち上げて、予算出して、銀行とかけ合って。

そのときに、そのおっちゃんが「こんなこと市長さんに言ってもしゃーないと思うけど、心配なんがうちのパートさん。客がおれへんから休んでもらってるんやけど、その人シングルマザーで、子供をうちのバイト代で食わしているのに払われへんくて気の毒やから、そういうひとり親の家庭をなんとかして」って言って。

それを聞いて明石市は、国が給付金を支給するよりも先にひとり親家庭に5万円振り込んだんです。で、それを国がマネしてん。国はほとんどうちのマネばっかりや、最近(笑)。

現代はかつてのように経済も人口も右肩上がりじゃない。スゴい勢いで時代が変わってきてるから、過去問やマニュアルを探すのは向いてないんですよ。ならどうすればいいか。答えは街に、市民にある。目の前に声があるから、もう答えはあるやん。過去問ちゃうよ。目の前に答えがあるのに、なんで街や市民や国民の声を聞かんのやって思う。