【ソウル=溝田拓士】韓国の 尹錫悦ユンソンニョル 政権が北朝鮮のロケット砲に備える新たな防空システム「韓国型アイアン・ドーム」の開発を進めている。朝鮮半島有事を想定し、射程内に入るソウル、 仁川インチョン などの首都圏や軍事施設の防衛力を向上させる狙いだ。

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人口6割射程に
 北朝鮮は今月中旬、日本海と黄海に900発以上の砲射撃を行い、韓国軍をけん制した。多くはロケット砲だったとみられる。

 北朝鮮は米国に対抗するための核・ミサイル開発と並行し、軍事境界線から最短で数十キロ・メートルのソウルをはじめ、韓国軍基地、在韓米軍基地を狙う多連装のロケット砲を増強してきた。

 韓国の国防白書によると、北朝鮮は大きさや射程の異なるロケット砲を約5500門保有する。ロケット弾の爆発の被害は半径数十メートルに及ぶとされ、一斉射撃されると被害は甚大だ。

 米ランド研究所の報告書によると、軍事境界線付近に射程200キロ・メートルのロケット砲が配備された場合、韓国の全人口約5100万人の約6割が射程に入る。同研究所は、「砲撃に対する人口密集地の 脆弱ぜいじゃく 性が軍事挑発や紛争拡大のリスクを高めかねない」と指摘する。

 高高度から飛来する弾道ミサイル向けのミサイル防衛システムとは違い、比較的低い高度で射撃するロケット砲や自走砲などには別の防衛システムが必要だ。

イスラエル先行
 韓国軍が開発を急ぐのが、ロケット弾をレーダーで探知・追跡し、迎撃ポイントを計算してミサイルで打ち落とすシステムだ。イスラエルの対空防衛システム「アイアン・ドーム」にちなみ、「韓国型アイアン・ドーム」と呼ばれる。

 アイアン・ドームは、イスラエル軍が、イスラム主義組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区からのロケット弾を防ぐために2011年に配備したシステム。最大70キロ・メートル先まで探知でき、命中率は9割と言われる。レーダー網でドームのように都市を覆うイメージで知られる。

 韓国軍は軍事境界線付近に自走砲などを多数配置し、抑止力を示すことで対抗してきたが、北朝鮮の軍事的脅威が増すなか、18年に韓国型アイアン・ドームの開発計画を明らかにした。

初期配備26年
 韓国政府は今年4月、29年までに開発完了との見通しを示したが、5月に就任した尹大統領は「26年までの初期配備」を公約に掲げ、作業が加速している。聯合ニュースによると、数百発を素早く正確に探知できる技術を開発中という。

 ただ、米CNNによると、イスラエルのアイアン・ドームはそもそも全てのロケット弾を追尾せず、防衛対象に最大の脅威を与えるかどうかで判断する。昨年5月のハマス側との軍事衝突でも、最初の約1週間で迎撃したのは、飛来したロケット弾の半数以下だった。

 有事の際に北朝鮮が大量の砲射撃で飽和攻撃を狙うのは確実で、被害を最小限にできる高度なシステムの開発は難航も予想される。

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