ロシアによるウクライナ侵略が開始から1年が経つ中、戦争のさらなる長期化が確実な情勢となっている。戦果が上がらない状況が続くロシア軍だが、東部戦線では引き続き人員の大量投入による苛烈な攻撃を続けてウクライナ軍に圧力をかけている。一方のウクライナ軍も欧米の支援を受け、春には大がかりな攻勢に出る見通しだ。戦闘は今後も激しさを増しながら、両軍の攻防が続く可能性が高い。

https://wedge.ismcdn.jp/mwimgs/0/d/1200m/img_0dd460a524e5f412095e59fb9db0a01d497653.jpg
ウクライナ侵攻が長期化し、犠牲も正当化されつつあるロシア軍人たち(ロイター/アフロ)

 ロシアのプーチン大統領は戦死した兵士を賛美するかのような発言を繰り返すなど、事実上国民に犠牲を求める姿勢を鮮明にしている。戦争に反対する多くの若者が国を去り、社会、経済の劣化が確実に続く中、残されたロシア国民は狂気的ともいえる指導層の方針に付き従うしかない生活を余儀なくされている。          

犯罪者を〝英雄視〟
 ロシア南西部クラスノダール州の村、バキンスカヤ。2014年に冬季五輪が開催されたソチからも近い小さな村でこのほど、大量の墓が新設されている事実が発覚した。埋葬されているのは、ウクライナ東部の戦線に投じられている民間軍事会社「ワグネル」の戦闘員らの死体だ。

▷セルゲイ・マリンコ――サンクトペテルブルク出身、47歳。酔って知人を背中から刺し懲役5年

▷フィラレト・ガムリャク――モルドバ出身、47歳。女性を殺害。他にも複数の殺害を試みたとして懲役10年

▷アレクサンドル・コルハレフ――出身地不明。母親を殺害した容疑で懲役12年――。

 米系の報道機関が墓標に記された名前と生年月日を突き合わせて割り出したのは、死亡者の多くが凶悪な犯罪を行った元囚人だった現実だ。

 囚人らは半年の兵役と引き換えに、過去の犯罪歴が〝消去〟される――。ワグネルの創設者、エブゲニー・プリゴジン氏はロシア国内の犯罪者収容施設をヘリコプターで訪れ、こう説いてまわっていた。囚人をリクルートし、ウクライナ東部の戦線に兵士として大量に投入するためだ。ワグネルがウクライナ戦線に投じた兵士数は約5万人で、4万人が囚人だったともいわれる。

 囚人らは契約を交わすなり、バスで大量輸送された。ワグネル側は特に、殺人犯や強盗などの犯罪者を好んだという。

 彼らは簡単な訓練で銃器の扱いを覚えると即座に最前線に投じられた。しかし彼らの役割は、精鋭部隊が入る前にウクライナ軍の激しい攻撃の前に身をさらす〝肉の壁〟の役割だった。おじけづいて命令を無視した元囚人が、自分で墓穴を掘らされて、処刑されたとの証言もある。

 ワグネルの手法から浮かび上がるのは、ロシア国内で法の支配が恣意的にゆがめられ、機能しなくなっている現実だ。私兵になることと引き換えに、公的に認められた重罪が許される。法の正義を踏みにじるプリゴジン氏はプーチン大統領に近しい政商であり、彼は〝上から承認〟されていると公言すらしている。

 一部の自治体では、死亡したワグネルの兵士を「犯罪者だ」として埋葬を拒否したというが、プリゴジン氏はそのような自治体の首長に対し、「お前たちの子供を前線に放り込む」と恫喝したという。       

終わりが見えない戦争
 攻めている側のロシア社会がゆがみ続ける中、ウクライナ侵略は終わりがまったく見えない状況に陥りつつある。

 開戦1年となる24日を前に、ロシア軍が大規模攻勢をかけるとの見方は依然として強く、実際に東部戦線では攻撃が激化しているとも伝えられる。ロシア軍は年初にゲラシモフ参謀総長が総司令官に就任するなど、立て直しを図ろうともしている。ウクライナ国境付近にはロシア空軍の戦闘機やヘリが集結している事実も報じられた。

つづき
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/29495