熱源探知も通用しない “見えない敵”
 ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから1年が経過し、TVやインターネット動画、SNSなど様々なかたちで戦闘の様子が伝わるようになりました。特にロシア戦車が破壊され使い物にならなくなる映像は、陸戦の象徴でもある戦車が撃破されているということで、ウクライナ軍の士気を高揚しているともいわれています。

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軽装甲機動車からの01式軽対戦車誘導弾の射撃シーン。車両から撃つ場合は、射撃後にすぐ移動できるのが最大のメリット(武若雅哉撮影)。

 一見すると無敵のようにも思える戦車も、このようにやられることは多々あります。戦車が苦手とするものは、見えない場所に潜む歩兵と、地面に埋められた対戦車地雷です。

 そもそも戦車は、死角が多い乗りものです。特に近く低い位置にあるものほど見えにくく、斜め後ろなどは砲塔から頭を出し、肉眼で周囲を警戒する車長でも気付きにくい場所となります。そのため、塹壕などを掘って地面と同じ高さで隠れる歩兵や、地面に伏せている歩兵、そして埋設された対戦車地雷などは、戦車乗りからすれば非常に厄介な存在となるのです。

 地面に穴を掘り、そこに身を隠す歩兵ですが、訓練の行き届いたベテラン兵士ほど息を潜めて目標となる敵戦車をじっと待ち続けるため、何も知らない戦車の乗員が気付くことは困難だといえるでしょう。日本の90式戦車や10式戦車をはじめとして、現代の戦車は熱源を探知できるサーマルビジョンも搭載していますが、歩兵が草木で偽装してしまうと体温程度では特定することが難しくなります。

対戦車地雷と対戦車火器をセットで使うのが定石
 なお、熟練の歩兵は、あらかじめ戦車が通りそうな道路脇の森林地帯や錯雑地の中で、息を潜めて戦車が来るのをひたすら待ちます。そこに敵の戦車が現れた場合、まず先頭を走る戦車は無視して、2両目や3両目の戦車に向けて対戦車火器を撃ち込みます。

 これは不意を突くというほかに車列を分断するなどといった意味もあります。すると、後続の車両は速度を落とすか、その場で停止するので、その隙に2発目、3発目を次々発射します。なお、当然ながら先頭車両は無傷なため、こちらにも対戦車火器を撃つ必要があるでしょう。こうすると、うまくいけば歩兵であっても効果的に敵の戦車部隊を沈黙させることができます。

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地中に埋められた対戦車地雷(写真中央)。うまく隠された対戦車地雷は探し出すのが困難だ(武若雅哉撮影)。

 ただ、その一方で歩兵側からすると、このような戦闘は非常にリスキーな面もあります。なぜなら、相手は装甲によって守られていますが、歩兵はヘルメットと防弾チョッキを着用する程度で、防御力に関してはほぼありません。また、こうした攻撃を行うのは少数の精鋭たちであるため、戦車部隊に追従する敵の歩兵部隊が攻撃してくると、圧倒的に不利な状況に陥ります。

 そこで、対戦車火器とともに組み合わせて使われるのが対戦車地雷です。

 対戦車地雷は、1個でも戦車を動けなくさせることができる兵器として世界中で使われていて、ウクライナでも多用されています。SNSなどで出回っている映像を見ると、まず対戦車地雷を踏ませてロシア戦車の動きを遅くさせてから、対戦車火器を撃ち込むという戦い方をしているのが確認できました。これは非常に理にかなった手法で、誘導装置がない対戦車火器を確実に戦車に命中させるには、相手の速度を遅くさせるのが一番だからです。