先進7カ国(G7)のうち日本を除く6カ国と欧州連合(EU)の駐日大使が連名で、性的少数者(LGBTQ)の人権を守る法整備を促す岸田文雄首相宛ての書簡を取りまとめていたことが、複数の外交筋への取材で分かった。元首相秘書官の荒井勝喜まさよし氏の差別発言をきっかけに、エマニュエル米大使が主導した。G7で唯一、差別禁止を定めた法律がなく、同性婚も認めていない日本政府に対し、今年5月の首脳会議(広島サミット)で首相が議長を務めることも踏まえ、対応を迫る内容だ。(柚木まり)
 書簡は2月17日付。「プライベートレター(私信)」の扱いだが、エマニュエル氏を含む7人の大使が署名した。
 日本政府高官は15日、本紙の取材に「途中はどうかわからないが、結果的にはもらっていないのではないか」と述べた。
 本紙が入手した書簡のコピーによると、日本でLGBTQの権利を守る法整備が遅れていることを念頭に「議長国の日本は全ての人に平等な権利をもたらすまたとない機会に恵まれている」と指摘し、国際社会の動きに足並みをそろえることができると求めた。

元首相秘書官の差別発言には直接言及していないが「LGBTQへの等しい権利を求める日本の世論が高まっているだけでなく、差別から当事者を守ることは経済成長や安全保障、家族の結束にも寄与する」と強調。ジェンダー平等を巡り「全ての人が差別や暴力から守られるべきだ」と明記した昨年のG7サミットの最終成果文書に日本が署名したことにも触れ、「日本とともに人々が性的指向や性自認にかかわらず差別から解放されることを確かなものにしたい」と訴えた。
 関係者によると、大使らは当初、公式な声明を出すことを検討したが、内政干渉と受け取られることを懸念し、非公式に各国の意向を示すことにした。
 書簡のとりまとめに先立ち、エマニュエル氏は2月15日に日本記者クラブで会見し「(LGBTQの)理解増進だけでなく、差別に対して明確に、必要な措置を講じる」ことを首相や国会に注文した。
 首相は2月17日、当事者団体の代表者らと面会し、多様性が尊重される社会の実現に努力する考えを表明。自民党には、超党派議員連盟がまとめたLGBTQの理解増進法案の国会提出に向けた準備を進めるよう指示しているが、党内論議は始まっていない。

東京新聞
2023年3月16日 06時00分
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