列車とエゾシカとの衝突事故が増加している。JR北海道によると、2022年度は2881件と過去最多を更新し、5年前の1・6倍となった。温暖化の影響で生息範囲が広がっていることが、背景にあるとみられる。JR北は線路脇に進入防止柵を設置し、衝突回避のため減速運転を導入しているが状況は改善していない。

道東や道北多く

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 JR北の発表によると、22年度の衝突件数は前年度から249件増加した。路線別では石北線の増加幅が大きく、前年度より128件増の373件だった。列車の運休か、30分以上の遅れが生じる「輸送障害」も、22年度は174件と過去最多を記録。今月3日も午後9時20分頃に室蘭線幌別―富浦間で特急「北斗21号」(9両編成)が衝突に伴い緊急停止した。

 列車事故は運休や遅れだけでなく、乗客のけがにもつながりかねない。修繕費用もかさみ、財政難のJR北にとって悩みの種だ。増加を続ける事故件数について、広報担当者は「道東、道北を中心として、鉄道沿線に都市が少ない地域で件数が多いようだ」とため息をつく。

 北海道野生動物対策課エゾシカ対策係によると、21年度の推定生息数は69万頭で、10年前からほぼ横ばい状態にある。ただ、温暖化で積雪が少なくなった影響で、シカがエサの草を確保しやすくなり、生息範囲は日高から胆振へ、上川から留萌へと、徐々に西の地域へ向かって広がってきているという。担当者は「シカの分布が列車本数の多い地域まで拡大してきたために、事故件数が増えているのではないか」と推測する。

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花咲線の線路上を走るシカの群れ(JR北提供)

 シカが鉄分の補給源としてレールをなめるため線路に近づいているとの見方もある。

鉄柵設置など対応
 JR北も手をこまねいているわけではない。これまでに線路脇の鉄柵を計126キロ設置しているほか、昨年12月~今年3月には、本支社別で最も事故が多い釧路支社管内の花咲線、釧網線の一部列車で減速運転を行った。同支社ではシカとの衝突を回避しようと急ブレーキをかけたために車輪が損傷し、修繕で車両14両のうち8両が使用できないこともあった。

 減速運転した列車には最大16分の遅れが生じた。一方、期間中に修繕費用が削減できたかは検証中という。同社は「利用客に少しでも迷惑をかけないよう、様々な対策を試していきたい」としている。

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