6月13日、静岡県の川勝平太知事(74)が定例会見で記者から“集中砲火”とでも言うべき厳しい質問責めにあった──。このニュースをお伝えするには、まずは川勝知事がリニア中央新幹線の工事で奇妙な“主張”をしていることから説明しなければならない。

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 事の発端は2月20日、JR東海が「山梨県内において静岡県側に向けて実施する高速長尺先進ボーリングを開始」とのプレスリリースを発表したことに遡る。

 ボーリング調査といえば地上に櫓を建て、地下に向かって掘り進めていくイメージが強いだろう。「高速長尺先進ボーリング調査」の場合、地中を水平に掘っていく。担当記者が言う。

「山梨県から静岡県に跨がるリニアのトンネル工区は、南アルプスの山中に位置し、まさに動物しか住んでいないような地域です。地表から垂直に掘るボーリング調査は技術的に困難な場所が多く、そのため地下で水平方向に掘ります。具体的には、山梨県側の工区で地質調査などを行う先進抗の掘削を続け、その先端で水平方向の高速長尺先進ボーリングを実施すると、地質の状況や地下水の湧水量などのデータを得ることができるのです」

 翌21日から高速長尺先進ボーリングが山梨県内で開始された。ボーリングが空ける穴は、手前側から35センチ、20センチ、12センチと3段階に分かれている。先端ほど狭くなり、削孔をすればもちろん地下水が湧き出る。

山梨の工事に静岡が異議
 湧水の問題について、JR東海は静岡県にきめ細かな“配慮”を示していた。まず、ボーリング調査の際、静岡県境に残り100メートルに迫った時点で削孔を慎重にすることを表明した。

 これに対し静岡県は「100メートルでは不十分ではないか」と要求。JR東海は受け入れるのだが、これについては後で詳述する。

 さらに、JR東海は湧水量の管理値(註1)を設定。管理値を超える湧水が発生した場合は削孔を中止し、湧水を止める作業を行うと確約した。

 だが、この時点で「?」が浮かぶ向きもあるだろう。そもそも山梨県内で行われるボーリング調査だ。たとえ湧水が発生しても、それは「山梨県の地下水」だろう。静岡県がどうのこうのと言える立場ではないはずだ──。

 JR東海が川勝知事の意向を気にしているのは、やはり理由がある。知事は「ボーリング調査で静岡県の水資源に配慮せよ」と要求しているわけではない。「山梨県内のボーリング調査で発生する湧水は静岡県の地下水だ」と主張しているのだ。

サイフォンの原理
 なぜ静岡県の地下水が山梨県で湧き出るのか。川勝知事が理由として説明したのが“サイフォン理論”だ。2月28日に行われた定例記者会見で飛び出し、これに「非科学的」といった批判が集中している。

 28日の定例会見で、記者クラブの幹事社がボーリング調査について質問。川勝知事は《JR東海は、静岡県内の地下水が大量に山梨県内に流入することは想定しがたいという見解を示されております》と喋り始めた。

 いくら県境で行われるボーリング調査とはいえ、普通なら静岡県内の地下水が山梨県側に流れ込むことは考えにくい。川勝知事がこのトーンで発言を続けていれば、常識的な見解ということで終わったはずだ。

 ところが、川勝知事はさらに発言を続ける。ボーリング調査が行われる場所は《山梨県側の断層およびもろい区間が、静岡県内の県境付近の断層帯とつながって》いるという。

 すると《いわゆるサイフォンの原理で、静岡県内の地下水が流出してしまう懸念がございます》と言い始めたのだ。

つづき
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/06290602/