後期高齢者医療保険制度の保険料が引き上げられることになりました。対象となるのは、年金収入が年153万円を超える約4割の方々です。目的は、現役世代の負担の抑制と出産育児一時金の増額と、納得感のあるものですが、財源確保の方法としては、診療報酬の自己負担割合アップのほうが、効果が高いのではないかと考えられます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

後期高齢者の健康保険料、引き上げへ
後期高齢者医療保険制度の保険料が引き上げられます。現役世代の負担を抑えるためと、出産育児一時金を増額する財源ということですから、目的は問題ありませんし、そのために後期高齢者に負担をお願いするというのも仕方ないでしょう。

問題は、負担の求め方です。健康保険組合の財政を改善するためであれば、健康保険料を引き上げるのではなく、診療報酬の自己負担割合を引き上げるべきでしょう。そうすれば、必要性の低い医療が減るからです。

必要性の低い医療が行われている可能性も
1万円の医療行為を後期高齢者が受けたとして、自己負担比率が1割であれば1,000円です。それによってちょっとした痛みが和らいだ喜びが、たとえば、1,500円の消費活動と同程度だとします。

後期高齢者は、同じ喜びが得られるならコストが安い方を選ぶでしょうから、医療行為が行われるでしょう。その結果、健康保険組合は9,000円の負担を強いられることとなるわけです。

もしも後期高齢者の自己負担比率が2割に引き上げられたとすれば、彼らは消費活動を選ぶでしょうから、健康保険組合の負担は9,000円減り、その分が現役世代の負担軽減に使えるわけです。

保険料を値上げしても、後期高齢者の行動に影響を与えることはできませんが、自己負担比率を引き上げれば、彼らの行動を変えることができ、それによって大きなメリットが受けられるわけです。

健康保険組合にとってのメリットだけではありません。日本経済にとっても、1,500円分のメリットしか感じられない医療サービスに1万円のコストを払うのは好ましいことではないので、それが減ることのメリットは大きなものがあるはずです。

そんなことをしたら医師が失業してしまう、と心配する人もいるでしょうが、高齢化によって医療や介護の需要は増加するでしょうから、医師不足が適度に解消されて丁度いいのではないでしょうか。「3時間待って3分診療」が減れば、待たされる国民の時間が浪費されずにすむこともメリットですね。

ちなみに、経済学者は「医者が失業したらレストランで働けばいい」などと言いかねませんが、本稿はそんなことは言いませんので、ご安心下さい(笑)。

感染症の治療や予防は安く、それ以外は高く
自己負担割合を決める際に、感染症の治療や予防は負担割合を小さくし、それ以外は負担割合を大きくする、という選択肢も要検討でしょう。感染症の予防をせずに罹患し、治療せずに他人に感染させる人が出てくると困るので、そうした人が減るように予防と治療を安くするのです。