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記者会見するIAEAのラファエル・グロッシ事務局長
KAZUHIRO NOGI(AFP=時事)

東京電力福島第一原発の「処理水」の海洋放出をめぐり、東京新聞が7月8日に配信した記事が議論を呼んでいる。

「原発処理水の放出にお墨付き…IAEAは本当に『中立』か 日本は巨額の分担金、電力業界も人員派遣」と題した記事だ。

海洋放出は「国際的な安全基準と合致する」といった内容の包括報告書を今月4日に発表した国際原子力機関(IAEA)について、記事は「(IAEAに)日本が多くの分担金を出してきた」などとして、その中立性に疑問を投げかけた。

分担金とは何か。その多寡は国連や国際機関の職員に影響を与えるのか。IAEAは中立ではないのか。

国連で長く勤務した経験を持つ、上智大の植木安弘教授(国際関係論)に話を聞いた。

経緯を振り返る
福島第一原発では、原子炉建屋に雨水や地下水が流入したりして、放射性物質を含む「汚染水」が発生している。

これを「多核種除去設備(ALPS)」などに通し、放射性物質を取り除く処理をかけたものが「処理水」となる。

処理水は、技術的に取り除くことが難しい水素の仲間「トリチウム」を含んでいるが、この物質は自然界や水道水、人間の体内にも存在する。

また、トリチウムが出す放射線のエネルギーは紙一枚で防げるほど弱く、この物質は日本を含む世界各国の原発施設から海洋放出されてきた。

福島第一原発ではこの処理水をタンクに貯蔵してきたが、すでに1000基を超える数となり、敷地を広く占有。

本格化する廃炉作業を安全に進めるためにはタンクを減らす必要があり、21年4月に当時の菅義偉首相が「避けては通れない」と、海洋放出方針の正式決定を発表した。

IAEAは、処理水の海洋放出が安全かどうか見極めるため、現地調査などを繰り返し行ってきた。

そのうえで23年7月4日、処理水の海洋放出を「人や環境に与える放射線の影響は無視できるもの」「国際的な安全基準に合致する」とする包括報告書を公表した。

IAEAがまとめた福島第一原発の処理水放出に関する包括報告書
東京新聞の報道は
東京新聞は7月8日、「そもそもIAEAはどこまで信を置けるのか」「IAEAのお墨付きは、中立的な立場から出たと受け止めるべきか」といった記事を配信した。

日本がIAEAに多くの分担金を支出していることや、職員を派遣していることなどを説明し、「日本政府は巨額の費用を投じたIAEAに海洋放出計画の評価を依頼し、報告書を受け取った」と報じた。

また、IAEAのお墨付きは「原発推進派の茶番劇」(「原発事故被害者相双の会」関係者)、「IAEAについて無視できないのは電力業界からの人員派遣。利益代表の側面があるのではないか」(元駐スイス大使)といった声を紹介。

IAEAや包括報告書を「微妙な立ち位置」や「心もとない」と批判し、「IAEAは公正な第三者機関にはなり得ない」というジャーナリストの話も引用した。

そして、最後に「国際貢献で支出が必要だとしても、資金提供する組織に評価を求めれば『配慮』が働く恐れがある。お墨付きをもらう相手を間違えていまいか」という「デスクメモ」で締め括った。

松野官房長官は会見で…
松野博一官房長官は7月10日朝の記者会見で、「IAEAへの分担金や日本人職員の存在を理由として、包括報告書に疑問があるという主張は全くあたらず、国際機関の存在意義そのものを失わせかねない」と反論した。

経済力のある国が相対的に多くの分担金を支払うことになっており、2023年のIAEAの分担率は、処理水放出に反対する中国(14.5%)が日本(7.8%)より高かったと説明。

国連関係機関はできるだけ幅広い地域から職員を採用することが求められているため、IAEAに日本人職員がいることは当然で、IAEA憲章で職員の中立性も確保されているとした。

つづき
https://www.huffingtonpost.jp/entry/tokyo-iaea_jp_64ae0c6be4b02fb0e6fbbfd8