韓国サムスン電子の業績が悪化している。半導体事業は赤字が続き、スマートフォンやパソコン、デジタル家電でも収益減少、ディスプレー事業も振るわない。半導体産業の構造変化が加速度的に進む中、わが国をはじめ欧米では半導体の自国生産誘致に総力を挙げている。サムスン電子が変化に対応しなければ、韓国経済の不透明感は高まる。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)

韓国最大かつ最強のサムスン電子に異変
 韓国経済において最大かつ最強の企業、サムスン電子の業績が悪化している。7月27日に発表した2023年4~6月期決算は、収益が14年ぶりの低水準に落ち込んだことが分かった。背景にはメモリ半導体市況の悪化がある。また、スマートフォンやパソコンなどITデバイスの出荷台数も世界的に減少している。

 韓国ではサムスン電子をはじめIT先端企業の存在感が大きく、半導体などの輸出減少で景気の減速懸念が高まっている。そうした状況から、サムスン電子は、日米欧など、安定した事業環境を求めて海外進出を強化せざるを得なくなっている。

 世界的に、半導体産業を取り巻く環境は大きく変化している。わが国をはじめ米国、欧州連合(EU)は、戦略物資である半導体の自国生産誘致に総力を挙げている。そこで注目されるのが、サムスン電子は台湾積体電路製造(TSMC)に匹敵するような新たな工場計画を打ち出していないことだ。

 半導体産業の構造変化は加速度的に進んでいる。サムスン電子が変化に対応しない状況が続くと、メモリ半導体分野における世界トップの地位を維持することすら難しくなるかもしれない。それは、韓国経済の先行き不透明感を高める要因にもなるだろう。

なぜサムスン電子の業績が悪化しているのか
 サムスン電子の23年4~6月期決算は、営業利益が前年同期比95%減の6700億ウォン(約730億円)に落ち込んだ。特に注目の半導体事業(DRAMやNAND型フラッシュメモリなどのメモリ半導体、演算装置、ロジック半導体の受託製造=ファウンドリ)の営業損益は、前期から引き続き赤字だった。

 半導体事業の収益悪化は、経営陣の想定を上回っているだろう。今春以降、サムスン電子はメモリ半導体の減産を余儀なくされている。SKハイニックスや、米マイクロン・テクノロジーなどのメモリ半導体メーカーも減産に踏み切った。それでも今のところ、DRAM、NAND型フラッシュメモリの価格下落が止まる兆しは見られない。

 また、スマホやパソコン、デジタル家電などの事業でも収益は減少した。ディスプレー事業の業績も振るわない。株主資本利益率(ROE)も低下した。22年4~6月期のROEが14.0%だったのに対し、23年4~6月期は2%だった。経営陣はコスト削減策を打ち出しているが、それを上回るペースで主力製品の価格が下落したようだ。

 サムスン電子の業績悪化は、韓国経済に大きなマイナスだ。その影響の大きさは、株式市場に占める同社の存在感でも見て取れる。6月末のMSCI韓国株式インデックスを構成する銘柄のウエートで、サムスン電子の普通株は31.81%(6月末)を占めた。2位のSKハイニックスのウエート(5.80%)との差は大きい。3位はサムスン電子の優先株(4.52%)だ。

 世界的に、一企業が一国の株式市場の35%を上回る時価総額を占めるケースは特異だ。サムスン電子の好不調が、韓国経済全体の設備投資、輸出、個人消費などを左右するといっても過言ではない。実際に4~6月期、韓国の国内総生産を構成する個人消費、設備投資、輸出は、前期から減少した。