北朝鮮の「知られざる階級」の中身
最近、日本で映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』がヒットし、脱北者の存在が注目を浴びている。

脱北者とは、北朝鮮から海外へ亡命するということだ。

現在、韓国には3万人以上の脱北者がいると言われるが、その中に「在日脱北者」たちがいることは日本にはあまり知られてない。

日本で行われた1950年代から1985年まで行われていた帰国事業で、約9万3000人の在日同胞が北朝鮮に渡った。そして、現在韓国には在日脱北者を支援する団体「北送在日同胞協会」があり、その代表を務めるイ・テギョン氏はこの現代ビジネスでも度々記事を出している。

そして、イ・テギョン氏は平壌近郊で病院長をされた医者でもあり、韓国ではエリート脱北者の部類になっている。

北朝鮮での階級は、金家族は雲の上の神様で、その下に5階級のピラミッドが存在するという。具体的には(1)特別群衆、(2)核心群衆、(3)基本群衆、(4)複雑群衆、(5)敵対階層、残余分子となる。

在日が帰国事業で北朝鮮に渡ると、最初は中間層の「基本群衆(通称22号と呼ばれる)」とされるが、少しでも日本と比較したりすれば「敵対階層残余分子」となるようだ。韓国でエリート脱北者とは北朝鮮での(1)(2)の分類を指すが、イ・テギョン氏はその中で在日として病院長(2の部類)にまでなった人物だ。どうやってそこまで上り詰めたかは、去年、日本で出された著書『囚われの楽園』を見ていただいたほうが早いだろう。

脱北者が起こした「裁判」
そんなイ・テギョン氏が代表を務める「北送在日同胞協会」には、50名以上の在日脱北者が登録され、私も懇意に付き合わせてもらっている。そして、イ・テギョン氏含めて多くの在日脱北者が北朝鮮の真実を日本で訴えようと、日本で属していた組織支部や学校へ何度も足を運ぶが、門前払いをされているという。日本の組織にとって彼らは「祖国を裏切った者たち」ということでの対応のようだ。

実際、先日、学校出身の若者とSNSでやり取りをしたが、彼らは「脱北者の言葉は聞くに値しない嘘、薄っぺらい話」として耳を塞いでいた。普通に外部の意見を聞くことも自由のはずだが、そこに壁を作ってしまうのはモッタイナイと感じる。何とか彼らにも在日脱北者の声が届けばと思うが、中々難しいのだ。

話を元に戻して、そんなイ・テギョン氏が今回、北朝鮮を相手に裁判を起こしたという知らせが入ってきた。今回の裁判は、帰国事業でだまされて北に渡り、脱北した在日の5人が起こした裁判だという。

この裁判を担当するユン・スンヒョン弁護士を紹介してもらい、焦点を聞いてみた。日本で人権団体が起こした北朝鮮に対する裁判と韓国で始まる裁判ではいったい何がちがうのか。裁判後に脱北者が現実的に得るものがあるかどうかなど、私が気になることを聞いてみた。

甘い言葉に騙されて
韓国では、ニュースによって使われる北朝鮮の映像に対して著作権費を払っているという。それがコロナ、経済制裁の中でここ数年送金できておらず、その金額も数億円に膨らんでいるという。今回の裁判では窓口となる財団が北朝鮮に支払うべくプールしている著作権費を狙う作戦という。

私の心境からすれば徴用問題裁判で日本企業の供託金を元徴用工被害者に支払い許可を出したことを思えば、この支払命令が出てもおかしくないと思えるのだ。つまり、勝訴すれば取れる「実」があるということだ。そしてその「実」が韓国にある北朝鮮の財産であり、それで在日脱北者たちの補償ができるならば一番理にかなった裁判ではないだろうか。

もともと「在日脱北者」とは私が皆さんにわかりやすい様に勝手に呼んでいたもので、先日、イ・テギョン氏からもこの名称に指摘を受けた。正式には「北送在日脱北者」という。「北送」とは帰国事業によって北に送られたという意味だ。