こぼれた酒を手で払って、イブールは方で息をついた。
「お前は魔物使いではないか。マーサ同様、魔物たちを、魔物であるからといって
悪しざまに言うただの人間どもとは違うではないか。なぜ、魔物たちを哀れまぬ?
魔界はさっさと満杯になってしまい、多くのものが行き場を失って、しかたなく地上
をうろつきまわった。地上のひとびとは困り果てた。そんなときのために、神は門を
つくったはずだ。門番としての特別の人間たちを、我々エルへブンの民を生んだはずだ!」
イブールは卓に両手をつき、リュカを見下ろした。
「だが、ならばマーサはなんだ?望まれしものとしてのマーサとは、いったいなんなのだ?
獣も鳥も、魔物さえ、彼女にとっては、等しく同じだけ価値のある愛しいものなのだ。
彼女が大巫女の座につけば、門などもはや、意味はない。魔界と地上はごたまぜに
なってしまうだろう。そんな彼女を、マーサの息子よ、教えてくれ!神は、いったい、何のために生んだのだ?」