自民党は4日、衆院選の小選挙区で敗れ岸田文雄首相に辞意を伝えていた甘利明氏の後任幹事長に、茂木敏充前外相を充てる人事を正式決定した。政調会長や経済産業相などを歴任し、政策通として知られる茂木氏は、旧竹下派で会長代行を預かる当選10回のベテラン。政権発足から1カ月で党ナンバー2が交代する異例の混乱を収束させ、党内の一体感を醸成しつつ首相が掲げる党改革などを前進させられるか−。早速、手腕が試される。

 茂木氏はこの日、官邸で首相と面会し、「新しい資本主義」の実現をはじめ、首相が重視する政策や党改革について指示を受けた。その後、幹事長として初めて臨んだ記者会見では、(1)補正予算の早期成立(2)党役員の任期制限を含めたルール作り(3)来夏の参院選に向けた態勢づくり−を優先課題として位置付け、「国民の期待にしっかり応えていきたい」と力を込めた。

「実務能力は随一」選挙事情に通暁
 安倍晋三、菅義偉の両政権で重要閣僚や党役員などを任され、「実務能力は党内随一」との呼び声も高い茂木氏。党選対委員長の経験もあって全国の選挙事情に通暁し、来夏に次の政治決戦を控える参院側には歓迎する向きが強い。

 総裁任期を「3期9年」に延ばした党則改定の実務者として安倍氏からその才覚を高く買われ、総裁候補の一人として名前を挙げられたこともある。麻生太郎副総裁とも、頻繁に連絡を取り合う良好な関係を維持。「3A」の一角だった甘利氏の穴を埋めるだけにとどまらず、カネと人事の権限が集中するポストを無難に切り回していけば、「ポスト岸田」レースで一頭地を抜く存在になるとの見方が高まっている。

 ただ、「完璧主義者」と称される茂木氏を巡り永田町では以前から、「上に甘く、下に厳しい」(政府関係者)との耳の痛い指摘もついて回った。所属する党内第3勢力の旧竹下派内では、今も参院側に影響力を有する青木幹雄元官房長官との折り合いが悪いとされ、しこりを完全に解消できていない点も不安材料だ。「自分の足元も一枚岩にできない人が、党全体をまとめていけるのか」(党関係者)との辛い評価も聞かれる。

参院選の候補者調整「お手並み拝見」
 茂木氏がまず直面するのが、新型コロナウイルス禍で傷んだ経済の立て直しに向けて首相が編成を明言している大型補正予算の年内成立だ。柱の一つとなる現金給付に関して自民と公明党との間に認識のギャップがあり、限られた時間内に調整し合意に導いていかねばならない。

 「自民党は変わった、こういった姿を示していくことが重要だ」「参院選を待たず、もっと早い段階でできるものは実行していく」。就任会見でこう強調した党改革も待ったなし。旧態依然とした体質を転換し、「政治とカネ」問題や「過度な忖度(そんたく)」で揺らいだ党の信頼を地道に修復していくことが求められる。

 そして、参院選の候補者調整作業。今般の衆院選を無所属で戦って党の公認候補を破り、自民入りを望む前職や新人らの取り扱いも含め、幹事長判断に委ねられる案件は実に多岐にわたる。「お手並み拝見だな」。主流派とは距離を置くベテランは、冷ややかな視線を茂木氏に投げた。

 (河合仁志)

西日本新聞 2021/11/5 6:00
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