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毎日新聞 2021/11/12 07:00(最終更新 11/12 07:00) 有料記事 2545文字




 英グラスゴーで開催中の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、各国が温室効果ガス排出削減の取り組みを加速させている。強まる脱炭素の流れに日本はどう対処すべきか。世界的な電気自動車(EV)シフトの実相を読み解いた「モビリティ・ゼロ」の著者で、国際標準化団体の理事も務める伊藤忠総研・上席主任研究員の深尾三四郎さんに聞いた。【聞き手・和田憲二/経済部】

新たな「錬金術」に遅れた日本
 ――脱炭素の流れが加速しています。

 ◆脱炭素は欧州が編み出した世界経済のゲームチェンジです。二酸化炭素(CO2)の削減努力を排出枠などの形で可視化してお金に換えるという意味で、新たな「錬金術」とも言えます。仕掛けているのはポリシーメーカー(政策立案者)であって、産業の技術革新でもたらされる変化ではありません。目的はイノベーションを促し、新たな産業と雇用を生み出すこと。実はここが最大のポイントです。

 欧州委員会や米バイデン政権が脱炭素や気候変動問題を語るとき、真っ先に出てくる言葉は「雇用」。脱炭素は、CO2削減の旗印の下で国際的に繰り広げられている「雇用争奪戦」でもあるのです。

 ――欧米の存在感が目立っています。

 ◆米国はバイデン政権の誕生でパリ協定に復帰し、(自国と同水準の気候変動対策をしていない国からの輸入品に事実上の関税を課す)国境炭素税の導入に向けた議論も始まっている。つまり、欧州と同じ土俵に乗ろうとしています。中国も(企業間で排出枠を取引する)排出量取引を全国的に取り入れ、欧州と同じような戦い方を始めています。排出枠は「国際通貨」のように欧米中の世界3大市場を流通するようになるでしょう。日本はカーボンプライシング(炭素の価格付け)の導入で出遅れていますが、この構図をよく理解しなければなりません。完全に取り残されれば国益の観点から非常に危ない。輸出競争力、ひいては国力がそがれることになるからです。

 ――ただ日本には太陽光や風力発電などの適地が少なく、脱炭素を進めようにも不利だという指摘もあります。

 ◆もちろん…

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