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毎日新聞 2021/11/17 09:10(最終更新 11/17 09:10) 908文字




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冬眠穴にやって来たツキノワグマの雄アクオス(左)と争う雌のミロク=NPO法人ピッキオ提供

 子グマの天敵は大人の雄グマ? 20年以上クマの保護管理を続けるNPO法人「ピッキオ」(長野県軽井沢町)は、雄のツキノワグマが子グマを殺したとみられる事例を確認したと発表した。日本獣医生命科学大(東京)と共同研究した成果は、米国に本部がある「国際クマ協会」の学会誌「Ursus」のオンライン版に掲載された。ツキノワグマの子グマ殺しを学術的に確認したのは世界初とみられるという。ピッキオは、今回の結果を土台として研究が発展していくことを期待している。

 ピッキオは、2016年4月1日〜5月11日、町内の森の中にある冬眠穴にセンサーカメラを設置して、雌のツキノワグマ「ミロク」と子グマなどの様子を静止画で撮影した。



 5月6日の画像には、雄のツキノワグマ「アクオス」が冬眠穴の前に現れ、ミロクと激しく争う様子が残っていた。その後、アクオスは脱力した子グマをくわえて立ち去っていた。冬眠穴から少し離れた場所でミロクの死体を見つけたが、子グマの死体は見つからなかったという。また、アクオスと子グマが親子かどうかは確認できていない。

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ツキノワグマについて調査研究をしたNPO法人ピッキオの玉谷宏夫さん=長野県軽井沢町で2021年11月4日午後4時29分、坂根真理撮影

 ピッキオ野生動物担当の玉谷宏夫さんは「出産した雌のクマに発信器をつけて追跡したところ、死んでいたという事例に何度か立ち会った。(山間部で狩猟生活をする住民の)マタギもクマが子グマ殺しをすると話していた」とし、子グマ殺しは今回に限らないとの見方を示す。



 子殺しの動機には、(1)子育て中の雌は発情せず、雄が子グマを殺して雌の発情を促し、自分の子孫を残そうとするため(2)子グマを食べて栄養摂取するため――の2つの仮説があるという。

 ミロクは子グマを持ち去られてから24時間以内に死に、再発情するための時間が短いため交尾をした可能性は低く、仮説(1)は証明できなかった。子グマの死体が見つからず、(2)の栄養摂取のため食べられたかどうかも定かではない。ピッキオは、子殺しの動機などの解明に向け、調査を続けるという。



 研究に関わったピッキオスタッフの柳原千穂さんは「クマは怖い生き物だから子どもを殺すんだという目ではなく、自然界で起きている彼らの状態を科学的に捉えてもらえたら」と語った。【坂根真理】