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毎日新聞 2021/11/23 14:00(最終更新 11/23 14:18) 961文字




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「存在が認められていない」パレスチナ人の村、スシヤに住むナセル・ナワジャさん=ヨルダン川西岸で2021年10月3日午前10時25分、三木幸治撮影

 ごつごつとした岩と砂地の山岳地帯に、数十のテントが並ぶ。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のスシヤ。ここはイスラエル政府から「存在が認められていない」パレスチナ人の村だ。イスラエルは村に水道や電気を引くことを許可しておらず、生活用水は雨水に頼る。

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 だが近年はその雨水も減っている。背景には、気候変動により干ばつや大雨といった異常気象が世界的に増えている影響もあるとみられる。「イスラエルの占領政策と気候変動。両方と闘うのは厳しい」。羊飼いのナセル・ナワジャさん(39)はそう話した。



 イスラエルは1967年の第3次中東戦争で、パレスチナ人が住むヨルダン川西岸を占領。93年のオスロ合意で西岸の一部の自治は認められた。だがスシヤを含む約6割の土地は、今なおイスラエルが行政権・警察権を握り続けたままだ。

 イスラエル軍は86年、スシヤの住民に強制退去を命じ、住宅を破壊した。この土地からユダヤ人の古代遺跡が発掘されたためだった。住民は近くの土地に移動したが、軍は91年、再び強制退去を命じた。ナセルさんら約350人は今、さらに別の土地にテントを設置して暮らすが、いつ軍に追い出されるか分からない状況だ。国際社会では「占領地での住民迫害は国際法違反」との意見が大勢だが、イスラエル政府は住民への退去命令については合法と主張し、その姿勢を変える気配はない。




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雨水をくみ出すナセル・ナワジャさん=ヨルダン川西岸スシヤで2021年10月3日午前10時7分、三木幸治撮影

 住民はこれまで近くの村から数回にわたって水道管を敷いた。だがイスラエル軍はそのたびに水道管を破壊した。頼みの綱は雨水だが、住民によると、降水量は10年前に比べて2割ほど減ったという。住民は足りない水をパレスチナの企業から買うが、1カ月分で約400シェケル(約1万5000円)ほどかかる。これは住民の平均月収の約3割に相当するという。

 ドイツのマックスプランク研究所や世界銀行によると、中東では気候変動の影響で2050年までに気温が最大4度上がる可能性があり、その場合、降水量は最大6割減るという。だが英グラスゴーで10〜11月に開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、パレスチナの苦境はほとんど議論もされなかった。



 ナセルさんは話す。「なぜ先祖伝来の土地に住むことが、こんなに苦痛を伴うのか」【スシヤ(パレスチナ自治区ヨルダン川西岸)で三木幸治】