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毎日新聞 2021/11/24 17:15(最終更新 11/24 17:40) 1561文字




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忘年会や新年会に関する企業アンケート

 飲食店に対する営業時間の短縮要請が大阪府で全面解除されてから25日で1カ月。飲食店への客足は徐々に回復しつつあるものの、かつてのにぎわいにはほど遠い。もうすぐ書き入れ時の忘年会シーズンだが、その予約も低調だという。なぜだろうか。

 多くの飲食店が軒を連ねる大阪・ミナミ。フグが名物の「活魚料理あら磯」(大阪市中央区千日前1)は緊急事態宣言が10月1日に解除された後、営業を再開した。客は少しずつ戻ってきているが、新型コロナウイルス感染拡大前の2年前に比べると8割程度という。藤村貴志店長(57)は「仕事帰りに立ち寄る人が少なくなった。午後8時以降の街のにぎわいも以前より減ったように感じる」と話す。



 最近は週末などに親しい仲間と訪れる客が多く、1グループあたりの消費額はコロナ前と比べて上がっているという。藤村店長は「やっと外食できるようになったから『いいものを食べたい』と思う人が増えているのかもしれない。こちらも喜んでもらえるのは大きな励みになる」と語る。

 だが、忘年会の方は芳しくない。例年なら予約が相次ぐ時期だが、今年は20人以上の団体客の予約が入らない。特に、業界団体の会合がなくなっているという。「大人数で集まることをためらっている人はまだ多いのだろう」と推測する。



 今、国内ではコロナの感染者数は落ち着き、行動制限も大幅に緩和されている。藤村店長は街や飲食店に活気が戻るのを願う一方、複雑な思いもある。「この1、2カ月ですぐに売り上げを取り戻せるとは思っていない。感染者が増え、また休業要請となるのが一番怖い。人々の気持ちが緩まないよう注意を促す対策も必要ではないか」と心配していた。

 忘年会シーズンに向けて、各企業は社内ルールを定めている。感染拡大を警戒し、忘年会には二の足を踏む会社も少なくない。



 パナソニックは緊急事態宣言の解除後、飲食を伴う社内外の懇親会について、自治体の指針を守れば開催できると緩和した。ただし、各事業部門が「コミュニケーション活性化や事業強化に向けた取り組みの加速に必要」と判断した場合に限る。大阪ガスは10日、飲食を伴う懇親会への対応ルールを社員に示した。社内外ともに「できるだけ少人数で」といった制限を継続するもので、広報担当者は「大人数での忘年会はまだ難しい状況」と明かす。阪急電鉄は1日から、これまで全面自粛を求めていた飲食を伴う会合について「業務上必要なものは可」としたが、職場を挙げての忘年会はまだ自粛させる。

企業の7割「開催せず」
 東京商工リサーチが10月に全国の企業に実施したアンケートによると、回答した約8000社の70%が忘年会や新年会を「開催しない」と答えた。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象となっていないなら「開催する」としたのが28%、宣言や重点措置の有無を問わずに「開催する」との回答はわずか1%だった。大手私鉄に勤務する50代の社員は「『飲みニケーション』はやはり重要。飲み会で仲良くなった人に仕事上、助けてもらえることもあった。忘年会は特に、職場の一体感を作れる。開催されないのは残念だが、コロナもあるし無理強いはできない」と語った。【宮川佐知子、井口彩、小坂剛志、園部仁史】


「忘年会文化」薄れるかも
 関西の食に詳しい編集者の江弘毅(こう・ひろき)さんの話 宣言解除後に飲食店街を取材してもサラリーマンの姿は多く、にぎわいは戻りつつある。会社が忘年会の開催をためらうのは、クラスター(感染者集団)が発生すれば「企業の責任」を問われる可能性があるからだろう。また、若い人には「楽しい飲み会」を求める傾向もある。多くの上司と接し、時に説教も伴う忘年会は敬遠される。企業による忘年会の文化は「アフターコロナ」でも薄れていくのかもしれない。