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2021年12月18日07時07分

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北朝鮮の金正恩総書記=撮影日不明、平壌(朝鮮中央通信が7日配信)(AFP時事)

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北朝鮮の金正日総書記の葬儀で、霊きゅう車の横を歩く張成沢氏(手前左)と金正恩氏(同右)=2011年12月、平壌(AFP時事)

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北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の発射=2017年7月、撮影地不明(AFP時事)

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北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(左)とトランプ米大統領(肩書いずれも当時)=2018年6月、シンガポール(AFP時事)




 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が2011年12月17日の父、金正日氏の死去を受け、後継者として執権を開始して10年を迎えた。社会主義国としては異例の3代目世襲で最高指導者の座を引き継いだ正恩氏は実力者の粛清や核軍事力の増強などで「権力」の基盤を固めることに成功。最近は「首領」の称号も登場し、祖父の金日成主席ら先代指導者に並ぶ「権威」も得ようとしている。ただ、経済は苦しく課題は山積している。
 ◇粛清と暗殺
 正日氏の急死で突然権力を継承する形となった正恩氏は当時まだ20代後半で、経験も浅かった。しかし、13年には後見人役だった義理の叔父で実質的なナンバー2だった実力者の張成沢氏を残忍なやり方で処刑。表舞台に出ていた側近を相次いで粛清・失脚させるなどして一極集中の権力を固めた。
 17年には異母兄で事実上の亡命生活を送っていた金正男氏をマレーシアで暗殺。北朝鮮専門家は「正恩氏の権力や権威に対抗できる人物や勢力はもはや存在しない」と語る。韓国政府関係者は「当初は権力を無事継承できるか不安があったが、現在は体制を安定的に管理できている」とみている。
 ◇ミサイル発射と米朝会談
 正恩氏が執権後にまず注力したのは核・ミサイル開発だ。核実験を4回実施し、日本列島を越える長距離弾道ミサイルの発射実験を継続。17年11月には米本土を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射実験に成功したとして、正恩氏は「国家核武力完成の歴史的大業、ミサイル強国の偉業が実現した」と宣言した。
 「核抑止力」の強化で対米交渉の「安全装置」を確保できたと判断し、18年には外交活動も本格化させ、韓国の文在寅大統領や中国の習近平国家主席と相次いで会談。トランプ米大統領(当時)と初の米朝首脳会談に臨み、内外に存在を誇示した。非核化で合意できず、決裂したものの、「最大の敵国」のトップとの会談という祖父も父も成し遂げられなかった「外交資産」を手にした。
 今年初めの党大会では正恩氏は父も党トップとして就任したポストである総書記に就いた。さらに本来金日成主席のみに許された称号である「首領」という呼称も登場し、神格化された建国者と同等の権威付けも図られている。世宗研究所の鄭成長北韓研究センター長は「核武力完成に対する自信を土台に、首脳外交を展開したことで指導部内での正恩氏の権威がさらに高まった」と指摘する。
 ◇コロナで経済苦境
 正恩氏にとっての課題は疲弊する国内経済だ。国内向けに「人民大衆第一主義」を掲げ、経済の立て直しなど人民生活向上を目指したが、国際社会の経済制裁に加え、新型コロナウイルスの防疫対策で20年1月以降、2年近く鎖国状態に。正恩氏は演説で経済の苦境に言及し、声を詰まらせ、「努力が足りず、人民が生活上の困難を克服できていない」と反省を口にしたこともある。
 北朝鮮筋によると、中国からの輸入ができないため、国内ではせっけんやシャンプーなど日用品の価格が急騰。新型コロナの収束が見通せない中、国境を開くこともできず、経済はさらに窮迫しているもようだ。
 苦境打開には、対米交渉が必須だ。しかし、韓国政府関係者は「北朝鮮はコロナの拡散を恐れており、南北や米朝対話を再開する決断を下す条件がそろっていない」と厳しい見方を示した。