https://mainichi.jp/articles/20220125/k00/00m/020/001000c

毎日新聞 2022/1/25 08:39(最終更新 1/25 09:09) 1368文字




https://cdn.mainichi.jp/vol1/2022/01/24/20220124k0000m020292000p/9.jpg
ガソリンスタンドで給油するスタッフ=松江市内で、松原隼斗撮影

 萩生田光一経済産業相は25日の閣議後記者会見で、ガソリンや灯油などの燃油価格の高騰を抑える価格抑制策を初めて発動すると発表した。価格高が新型コロナウイルス禍から回復しつつある日本経済の足かせになるのを防ぐ狙いがあるが、政府が補助金を投入して市場の価格決定に介入する異例の措置となる。

 抑制策は昨年の追加経済対策に盛り込まれ、レギュラーガソリンの全国平均小売価格が1リットル当たり170円を超えた場合に発動する仕組み。24日時点で170・2円となり、リーマン・ショックに見舞われた2008年9月以来、約13年4カ月ぶりに170円を超えた。政府が石油元売り会社に補助金を支給することで、27日からガソリンスタンドなどへの卸売価格に反映され、小売価格が下がる可能性がある。



 抑制策では、政府が石油元売り会社に1リットル当たり最大5円を事後精算で支給する。25日の発表によると、当初は今後上昇が見込まれる分も加味して支給額は3・4円となる。ガソリンだけでなく、軽油、灯油、重油も対象となる。

 石油元売り会社に支給される補助金額は原油市場の動向を踏まえて毎週見直していく。政府は財源として21年度補正予算で800億円を計上しているが、原油価格は1バレル=80ドル台後半の高値で推移しており、抑制策の発動は長期に及ぶ可能性もある。



 元売り会社には支給された補助金相当分を引き下げた卸売価格でガソリンスタンドなどの小売業者に販売することを約束させる。政府は小売価格の動向も調べるが、補助金によって抑制された卸値をガソリンスタンドが小売価格に反映させるかは各店舗の判断に委ねられている。そのため、実際に消費者が恩恵を受けられるかは不透明だ。

 今回の抑制策はあくまで今後の上昇を抑えることを目的にしており、石油連盟の杉森務会長(ENEOSホールディングス会長)は24日の定例記者会見で「急に(価格が)上がることを緩和するための措置であり、下げるための措置でないことをしっかり説明することが大事だ」と述べ、政府に丁寧な説明をするよう注文した。



 ガソリン価格の抑制策としては、3カ月連続で1リットル当たり160円を上回った場合、1リットル当たり53・8円かかっている税金のうち、25・1円の課税を一時的に停止する「トリガー条項」がある。旧民主党政権時代の10年に導入されたが、東日本大震災の復興財源確保のために一度も発動されないまま凍結されている。既に、発動要件を満たしているため、野党は凍結解除を求めている。

 ただ、トリガー条項の凍結解除には法改正が必要な上、年間3兆2000億円程度あるガソリン税と軽油引取税の税収が減るため、政府は難色を示している。岸田文雄首相は20日の国会答弁で「買い控えやその反動による流通の混乱があることから凍結解除は適当でない」と述べ、トリガー条項ではなく価格抑制策で対応していく考えを示した。



 世界的な原油高を踏まえ、政府は石油の国家備蓄の放出にも踏み切る予定だ。ガソリン高が深刻化する米国のバイデン大統領の呼び掛けに応じたもので、3月下旬から複数回に分けて国内消費量の2日分に相当する数十万キロリットルを放出する計画。ただ、放出する量が少ないこともあり、市場では価格を下げる効果を疑問視する見方が広がっている。【高橋祐貴】