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毎日新聞 2022/2/12 06:00(最終更新 2/12 06:00) 1208文字




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集会で支持者に演説するフェルディナンド・マルコス元上院議員=首都マニラ近郊のブラカン州で2022年2月8日、AP

 フィリピン大統領選(5月9日投開票)の選挙戦が本格化している。かつて長期独裁政権を率いた故マルコス元大統領の長男、フェルディナンド・マルコス元上院議員(64)が知名度を武器にして優位に立ち、レニー・ロブレド副大統領(56)らが追い上げる構図となっている。マルコス一族の復権の是非や南シナ海での領有権問題で対立する中国との関係、経済対策などが争点となっている。

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演説中に手を振るレニー・ロブレド副大統領=マニラ首都圏ケソン市で2021年10月7日、AP

 選挙運動が解禁された8日、マルコス氏は、副大統領候補としてタッグを組むドゥテルテ大統領の長女、サラ氏(43)とともに首都マニラで演説。「フィリピンを一つにする」と力を込めた。過激な麻薬撲滅策や積極的なインフラ整備を進めるドゥテルテ氏の路線を継承すると訴えている。



 マルコス氏の父親は1986年まで20年以上にわたり苛烈な独裁体制を敷いたが、その記憶は次第に薄れつつある。マルコス氏は、独裁時代以降に生まれた若い世代に支持者が多く、フェイスブック(FB)を中心にソーシャルメディアで積極的に情報発信をしている。

 一方で、独裁時代を経験した世代を中心にマルコス一族への反発は根強い。反マルコス派は、2016年の副大統領選でマルコス氏を破ったロブレド氏を軸に結集を図っている。



 ロブレド氏は、マルコス氏がテレビの候補者討論会などを欠席していることに対し「うそつきな上に、いつも厳しい状況から逃げる」と指摘。「公務に就けば自身の能力を国民にきちんと提示する責任があり、質問や批判から逃げるべきではない」と批判している。

 対中政策では、マルコス氏は融和路線を取る。これに対しロブレド氏は、南シナ海のほぼ全域に主権や権益が及ぶとする中国の主張を否定したオランダ・ハーグ仲裁裁判所の判決(16年)を重視し、中国に厳しい姿勢だ。



 この他に、元俳優で首都マニラ市のフランシスコ・ドマゴソ市長(47)▽国民的人気を誇る元プロボクシング世界王者マニー・パッキャオ上院議員(43)――らが出馬。民間の世論調査機関が21年末に発表した支持率調査によると、支持率はマルコス氏53%▽ロブレド氏20%▽ドマゴソ氏、パッキャオ氏各8%――と、マルコス氏が大きくリードしている。

 ただ、マルコス氏は95年に脱税罪で有罪判決を受けているため被選挙権がないとの指摘が出ている。市民グループが立候補の取り消しを求めて選挙管理委員会に請願したが、今月上旬、却下された。市民グループは最高裁判所への申し立てを検討している。



 マニラにあるデラサール大のクリーブ・アルグレリス講師(フィリピン政治)は、若い世代にとってマルコス一族のイメージは、「独裁」ではなく「伝統的な政治一家」だと説明。その上で、「新型コロナウイルスの影響で国内の経済が低迷する中、国民は変化よりも安定や規律、強いリーダーシップを求めている。『安定』をもたらしてくれると映るマルコス氏が有利な状況だ」と解説する。【バンコク石山絵歩】