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毎日新聞 2022/2/13 08:00(最終更新 2/13 08:00) 有料記事 1518文字




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ケニアの首都ナイロビのキベラ地区で新型コロナウイルスワクチンを接種する看護師。新型コロナ対策に看護師は欠かせない存在だ=2022年1月20日、AP

 新型コロナウイルスの流行が、貧しい国の看護師不足に拍車をかけている。富裕国が自国の人手不足を補おうと外国からの雇用を増やしているためだ。国際看護師協会(本部・スイス)は1月に発表した報告で「国と国との間で不平等がさらに広がる」と警告した。途上国からは「看護師の流出で医療崩壊が迫っている」との悲鳴が聞こえてくる。

先進国の看護師16%が外国出身
 看護師の移住はコロナ以前から始まっていた。経済協力開発機構(OECD)の2020年5月の発表によると、OECD加盟国全体の看護師の約7%にあたる約55万人が外国で看護師になるための教育を受け、約16%にあたる約152万人が外国出身だった。移住先は米国、ドイツ、英国――の順に多く、データのある32カ国中27カ国を欧米諸国が占める。送り出す側はフィリピンが最も多く、次いでインド、ポーランドの順。自国出身の看護師の半分以上が国外へ出てしまったという国もジャマイカ、リベリアなど中南米やアフリカの途上国を中心に20カ国に上る。

リクルーターが引き抜き
 「私たちは十分な看護師を育成しているのに、国内にとどめておけないのです」。人口約520万人の中東レバノンで、看護師組合の元代表ミルナ・ドウミットさんは毎日新聞のオンライン取材に応じ、険しい表情で話した。レバノンの看護師の登録者数は約1万8000人。このうち、実際に働いているのは9000人程度だ。通貨暴落に端を発した経済危機が深刻化した19年以降、約3000人が国外へ流出した。ドウミットさんは、小国のレバノンにとっては「すごく大きな数字」だと話す。加えて、新型コロナ流行が追い打ちをかけ、「欠員が出ればカバーする必要もある。看護師のストレスは高く、労働環境はとても悪い」と語った。

 看護師不足の背景には、経済危機で給料が下がるなど待遇が悪化し、家族への送金のために外国へ渡る人が増えたことが考えられる。コロナ以降、富裕国からの求人は活発化し、リクルーターが複数人を一気に引き抜いていくこともあるという。人材不足から一部の病院は診療部門を閉め、看護師1人が担当する患者数も増えている。

 ドウミットさんは「移住は個人の自由なので、止めることはできない」としながらも、「看護師不足は患者の生命にかかわる事態。看護師が自国で働き続けたいと思えるような対策を講じなければ、状況は悪くなる一方だ」と訴えた。

看護師の渡航費を政府が補助
 前述の国際看護師協会の報告によると、新型コロナの流行によって世界的に看護師不足が加速し、富裕国が人材補充の「近道」として外国からの看護師確保に力を入れるようになった。外国からの看護師受け入れに優遇措置を取る国もあり、オーストラリアでは政府が飛行機代などを補助している。英国では21年の…

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