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毎日新聞 2022/2/20 20:24(最終更新 2/20 21:48) 1137文字




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開会式で聖火リレーの最終走者を趙嘉文選手(右)とともに務めるジニゲル・イラムジャン選手=北京・国家体育場で2022年2月4日午後10時15分、手塚耕一郎撮影

 異例ずくめとなった北京冬季オリンピック。新型コロナウイルスの世界的大流行の中で、五輪会場の内外を完全に切り離すバブル方式は機能し、アスリートらの熱戦は多くの感動を与えた。一方で、大会に厳しい目を注ぐはずの海外メディアもバブルに閉じ込められたことで取材活動は制約され、「光」の部分が強調される結果となった。

 「世界で最も安全な場所がここだった。バブルは大成功だった」。18日の記者会見で国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は胸を張った。選手や関係者に入国前のワクチン接種を義務づけた上に、毎日のPCR検査で陽性者を把握し、隔離する。検査記録がなければ会場に入れないなど対策は最後まで徹底していた。選手からも「安心して競技に臨める」という声が相次いだ。



 大会組織委員会の発表では1月23日から2月19日までにバブル内で延べ170万回の検査が実施され、陽性者は172人。入国時の陽性確認は264人だった。2020年以降、都市封鎖も含む強い措置で新型コロナを抑え込んできた中国のノウハウを生かした形だ。中国も五輪を大成功と誇った。

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フェンスの外側には旧正月に街に出る市民の日常があった=中国・北京で2022年2月1日、貝塚太一撮影

 期間中、選手の活躍や国境を超えた友情などで全体にポジティブな空気が大会を覆った。だがそれは、コロナ対策を理由とした中国式の厳しい管理によって、人権問題などの暗部が表面化しなかったことも背景にある。



 08年の北京夏季五輪では外国人記者が首都で起きた政府への抗議活動やキリスト教関係者に対する抑圧などを取材し、報道した。今回も新疆ウイグル自治区での人権問題などは大きなテーマだったが、こうしたニュースは影をひそめた。五輪会場を取材する記者たちがバブル内にとどまるよう求められたためだ。08年の五輪も取材をした米国人記者は「当事者の声が取材できなければ生々しい記事を書くのは難しい」とこぼした。

 バブル内も「中国式」は徹底された。象徴的だったのが、開会式の聖火リレーで最終ランナーを務めたウイグル族のジニゲル・イラムジャン選手(20)への取材だ。



 五輪のルールでは取材を受けるかどうかは選手の自由だが、競技後は報道陣が待つミックスゾーン(MZ)を通る義務がある。イラムジャン選手が出場したノルディックスキー会場のMZには多くの報道陣が集まった。だが出場した4種目のうち、記者が訪れた2種目では、ゴールから1時間半が過ぎてもMZにイラムジャン選手は姿を現さなかった。米メディアによると、他の1種目では報道陣の呼びかけに応じず、通り過ぎた。ところが中国紙の取材には応じ「最終ランナーに選ばれたのは光栄だ」と語った。

 バブル内で管理された北京冬季五輪は、現実世界とは大きく異なる「パラレルワールド」の中で演出されたものだった。【北京・林哲平】