? ロシアのプーチン大統領が、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力が実効支配する地域を「独立国家」として認め、軍派遣を命じた。親ロ派地域を足掛かりに勢力範囲を広げる手法は、2014年のウクライナ南部クリミア半島併合を思い起こさせる。8年前と同じ轍てつを踏まないよう対応してきた米欧だが、ロシアによる明らかな主権侵害を食い止められなかった。(モスクワ・小柳悠志、ワシントン・吉田通夫)

◆国家承認は「序章にすぎない」
 プーチン氏は21日のテレビ演説で「現在のウクライナ国境は、1917年のロシア革命後に引かれたものだ」と強調。ドネツク、ルガンスク2州の親ロシア派武装勢力が実効支配する地域をはじめ、ロシアに帰属すべき土地がウクライナ領に含まれていると主張した。
 国家承認という手続きを踏んだのは、ウクライナ領に軍隊を送り込む正当性を内外にアピールするためとみられるが、ロシアの政治評論家アレクセイ・ムヒン氏は「親ロ派地域の国家承認は序章にすぎない。ロシアの真の狙いは、親欧米のウクライナ政権を揺さぶることだ」と分析。ロシア軍はウクライナ周辺に19万人の兵力を展開させており、欧米側が譲歩せず反発を強めた場合はさらなる強硬手段に出る恐れがある。

◆8年前と同じ手法で「併合」の可能性
 ロシア系住民の保護を理由に、国家承認と軍事介入をするという手法は、14年のウクライナ南部クリミア半島併合と共通している。8年前は電撃的な侵攻で現地のウクライナ部隊を武装解除し、いったん「クリミア共和国」として独立宣言させた後、住民投票の結果と主張して併合した。
 東部親ロ派地域を巡る国家承認のやりとりでも、ナルイシキン対外情報局長官は21日、「ロシアに編入することに賛成する」と口を滑らせた。クリミア「併合」ではプーチン氏の支持率が跳ね上がっており、今回も24年の大統領選を見据えて、クリミア併合と同様の手順を経て併合に踏み切る可能性は否定できない。

◆米政府は「侵攻ではない」との見解だが…
 米欧は8年前にクリミア併合を止められなかった教訓を踏まえ、機密情報の積極的開示や大型制裁の準備で対応してきた。
 それだけにバイデン米政権は21日、ロシアが独立承認した地域を対象に、貿易や投資への米国人の関与を禁じる経済制裁を科したほか、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長も「制裁で対抗する」などと激しく反発した。
 ただ今回の「独立国家」はロシア軍が支援していた地域で、警戒していたウクライナ全土への攻撃ではなかったため、米政府高官は「新たなステップではない」として、侵攻ではないとの立場を報道陣に説明。22日も追加制裁を発表するが、米欧が擦り合わせてきた大規模な制裁とは別の措置という。
 ロシア側のペースから抜けられない米欧。今後の焦点は24日に予定されているブリンケン米国務長官とロシアのラブロフ外相の会談だ。米ロ首脳会談につなげて事態打開を図れるか、米欧は正念場を迎える。

東京新聞 2022年2月23日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/161833