先進7カ国(G7)がウクライナ侵攻したロシアに対する「強力な制裁」(バイデン米大統領)を打ち出した。一般市民が利用する大手銀行を対象とするなど厳しい内容だが、国際決済システムからのロシア排除は欧州側の反対で見送られた。制裁効果は不透明な上に、中ロを軸とした「反米経済圏」が力を増す懸念も指摘されている。(ワシントン・吉田通夫、パリ・谷悠己)

◆経済制裁でルーブル最安値、株式市場も3割下落
 米国が24日発表した制裁は、ロシア市民の多くが利用する2大銀行を含む主要銀行5行への金融制裁が柱だ。国際取引で一般的に利用される米ドルでの取引を厳しく制限するなどし、モノやサービスの国際間取引や、海外からの資金調達を難しくする。
 ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)に加盟していないため、ロシアの侵攻に対して米欧に防衛義務はない。このため経済的な制裁でロシア経済に打撃を与えるのが限られた手段だ。すでにロシアの株式市場は30%以上急落し当局が取引をストップしたほか、ロシア通貨のルーブルも一時、史上最安値になるなどの影響が出ている。
 米政権幹部は「時間とともに物価は上がり、人々は物を買えなくなり、生活水準は下がる」と制裁の効果に自信を示す。岸田文雄首相も25日の参議院予算委員会で「G7をはじめとする国際社会と連携して対応する」と、米欧に同調する姿勢を強調した。
◆銀行決済禁止は欧州が反対
 ただ一連の制裁に、国際銀行間通信協会(SWIFT=スイフト)からの排除は盛り込まれなかった。米国だけでなく、世界中の金融機関との決済ができなくなるというより重い措置のため、影響を受ける欧州側から難色が示されたからだ。
 AFP通信によると、欧州連合(EU)の制裁内容を協議した24日の緊急首脳会議で、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアのスイフト排除を求めたが、ロシアに天然ガス輸入を依存するドイツやイタリア、ハンガリーなどが難色を示したという。ポーランドのモラウィエツキ首相は「EUの弱さを露呈した」と悔やんだ。
 バイデン氏は、各国と協力して米ドルのほか円、ユーロ、英ポンドの取引も制限されるとして「スイフト(からの排除)より厳しいかもしれない」と強弁したが、米欧の団結の限界を示した。
◆中国はロシアから小麦輸入拡大へ
 制裁政策に詳しい米ペンシルベニア州立大のランダル・ニューハム教授は、スイフト排除を含めた厳しい措置をより早いタイミングで打ち出すべきだったと指摘。懸念材料として米国から制裁を受けるロシア、中国、イランなどが助け合って「反米経済圏」が強まるリスクを挙げる。
 中国政府は24日にロシアから小麦の輸入を拡大すると発表しており、ニューハム氏は「今回の経済制裁は一定の効果はあるだろうが、他国に侵攻し政府を転覆させるというロシアの行動の代償としては軽い」と話す。
 天然ガスや原油の輸出国であるロシアとの対立が激化することで、高騰している燃料価格がさらに値上がりする可能性もあり、今回の制裁がG7の見込み通りとなるか不透明だ。

東京新聞 2022年2月26日 06時00分
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