飲酒運転でひき逃げした車を追いかけ、現行犯逮捕に貢献したとして京都府警山科署は22日、伏見区の美容師、梶川英之さん(50)に感謝状を贈った。

 1月17日午後4時ごろ。梶川さんが原付きバイクで府道を走っていると、目の前の車が自転車の後部に追突した。自転車の女性(54)は宙に浮き、地面にたたきつけられた。

 「え? はねたよね」。自分の目を疑った。近くで道を歩いていた男女も目撃しており、一斉に女性の元に駆け寄った。

 「大丈夫ですか」。梶川さんが問いかけると、女性は道路の中央で横たわったまま、痛みを訴える。腰のあたりを骨折する重傷を負っていたが意識はあった。

 「生きている。大丈夫や、生きている」。過去にも事故現場に居合わせたことがあったからか、冷静に対応できた。通行人の女性に救急車の手配を、男性には後続の車を気にするようにと伝えた。

 だが次の瞬間、女性をはねた車が発進。「逃げたな」。無意識のうちに原付きバイクに戻り、ひき逃げ犯を追いかけていた。途中、ふと我に返り「止められたとしてもどう声をかけたらいいのか」と、不安もよぎった。

 逃げた車を1キロほど追いかけただろうか。諦めかけていたとき、対向車線にパトカーが向かってくるのが見えた。合図を送り警察官に「ひき逃げがありました」と伝えると、パトカーはUターンして車を追跡した。

 その後、逃走した車はすぐにパトカーに呼び止められ、運転していた男は呼気から基準を超えるアルコールが検知されて道路交通法違反(酒酔い運転)の疑いで現行犯逮捕された。酎ハイを8缶空け、同日には伏見区内で他2件の当て逃げ事件も起こしていたという。

 梶川さんは「とっさに追いかけていた。自分の快楽のために、人が命を落としたら、ひかれた人もひいた人も、人生の取り返しがつかない」と話す。

 府警によると、昨年府内ではひき逃げ事件は66件発生し、1人が死亡した。山科署の豊田政志交通課長は「ひき逃げ事故を目撃したら、車両の逃走方向やナンバーなど特徴をすぐに警察に通報してほしい」と話した。(富永鈴香)

朝日新聞 2022年2月26日 9時30分
https://www.asahi.com/articles/ASQ2T7RGYQ2QPLZB007.html?ref=tw_asahi