スイス政府は2月28日、ウクライナに侵攻を続けるロシアのプーチン大統領の資産凍結など欧州連合(EU)が科した対露経済制裁をスイス国内でも全面的に適用すると発表した。「永世中立」を国是に掲げるスイスはこれまで国際社会の対露制裁から距離を置いていたが、一転して異例ともいえる強力な制裁措置に加わった。海外メディアによると、資産凍結は1兆円を超えるという。

 スイスはこれまで、ロシア軍の侵攻を「最も強い言葉で非難する」としてきたが、EUの制裁対象となった富裕ロシア人と国内企業の取引を禁止するなどの限定的な措置にとどまり、国内外から批判の声が上がっていた。EUの制裁を全面適用することで、プーチン大統領やラブロフ露外相らへの金融制裁が直ちに発効され、制裁対象のロシア企業、個人が保有する資産が凍結される。

 英紙ガーディアンが報じたスイス国立銀行の統計によると、スイス国内にあるロシア関係の預金額は2020年時点で112億ドル(約1兆2800億円)に上る。スイスの銀行には法律で守秘義務が課され、顧客情報が厳格に管理されており、同紙は「現金の保管場所を探す富裕ロシア人にとって最大の拠点となっている」と指摘する。これらの“隠し資産”が凍結されればロシア経済にとってさらなる打撃となりそうだ。また、ロシア政府に近い富裕層の入国や、外交、医療、人道目的を除くロシアからの航空機の乗り入れも禁止するという。

 スイス政府はEUの制裁適用発表後の声明で、方針転換の理由を「欧州の主権国家に対するロシアの前例のない攻撃が決定的要因になった」と指摘。カシス大統領は記者会見で「ロシアは自由や民主主義を攻撃しており、受け入れられない。侵略者の術中にはまるなら、それは中立ではない」と語った。【金寿英】

毎日新聞 2022/3/1 22:15(最終更新 3/1 22:15) 739文字
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