横浜市瀬谷区の認定こども園で保育士らの退職や退職の申し出が相次いでいることが分かった。市内では今年度、別の園でも退職希望者が続出し、運営継続が一時危ぶまれる事態となった。待機児童解消の流れのなかで、「ハコ」と「ヒト」を急増させたものの、労働環境の整備が追いつかない現状が背景にある。保育の質の維持にも不安が残る。(日下翔己)

 大量退職問題が起きているのは、学校法人・横浜二ツ橋愛隣学園(梅沢忠実理事長)が運営する「二ツ橋あいりん幼稚園」。2020年7月、認可保育所を併せ持つ幼保連携型認定こども園へと移行し、横浜市などによると、2月1日時点で幼稚園と保育所を合わせ、55人の子供が通う。

 職員は、幼稚園のみだった頃の約15人から倍増したが、昨年末に保育士3人が退職。さらに10人が今年度末までに辞める意向を園側に伝えている。

 取材に対し、退職した保育士の1人は、2か月前に申請した有給休暇を取得2週間前に断られ、やむを得ずに休むと、「違反金」2万2000円を給料から引かれたと主張。別の退職保育士は、幼稚園と保育所を兼務させられ、0〜2歳児約20人を1人で任されることも多かったと訴える。園側に人手を増やすよう求めたが、「保育スキルが足りないだけだ」と取り合ってもらえなかったという。

 梅沢理事長は、多くの退職届が出ていることを認めつつ、「違反金は就業規則に基づいている。園児20人を1人で見させたことはない」と反論。そのうえで、「コロナ禍を言い訳にしたくはないが、職員とのコミュニケーションが取れていなかったかもしれない」と語った。

 園は、幼稚園と保育所を並行運営する管理能力、準備ができていなかったと認め、「改善に向けて取り組む」とコメント。「新たな職員の採用活動が進んでおり、運営は続けられる」とし、今月10日に保護者説明会を開くとしている。

 園側に対し、横浜市は配置人員不足の解消や職員との意思疎通をより図るように指導したが、「雇用関係の問題にまでは関与できない」とする。この園に限らず、運営を手助けするコンサルタントの派遣といった支援を続けているものの、職場環境をすべて把握することは難しいという。

「受け入れ先増えたが保育の質に不安」
 横浜市は近年、「待機児童ゼロ」を掲げ、公有地を活用するなどして認可保育所などの拡充を進めてきた。保育需要が高い「重点整備地域」では、運営法人への補助金の補助率を高く、補助期間を長く設定。こうした施策の結果、幼保連携型への移行や、県外法人による新規開設などもあり、2009年に420だった施設数は21年4月に1146に増加。待機児童は16人にまで減った。

 ただ、日本総合研究所の池本美香・上席主任研究員は「子供の受け入れ先は増えたが、保育の質には不安がある」と指摘する。たとえば、幼稚園が保育所を同時運営する場合、それぞれの保護者が求めるサービスや教育スタイルも異なり、一筋縄にはいかない。

 池本さんは、自治体がこども園を認可する際、敷地面積などはチェックするものの、「保育の中身」までは審査していないと指摘。「保育士ら職員、子供、保護者の声を吸い上げる枠組みがないことが根本的な問題。保育士は相談先もないから辞めていくしかないし、改善も難しくなる」と話す。

 保育現場の人手不足や処遇改善は全国的な課題になっている。政府は2月、新たな補助金を通じて保育士や幼稚園教諭らの賃金を3%引き上げたが、他業種との賃金格差はまだ残り、今回の賃上げも労働環境の改善につながるかは未知数だ。

読売新聞 2022/03/07 10:31
https://www.yomiuri.co.jp/national/20220306-OYT1T50104/