住居の確保や職探しに欠かせないインフラとなったスマートフォンを3カ月間無料で貸し出し、過去の料金滞納などで携帯電話を契約できない生活困窮者を支援するサービスが、東京都世田谷区で実施されている。取り組むのは区社会福祉協議会。単に貸すだけではなく、就労や生活、家計などの相談事業とセットにすることがポイントになっている。社協が費用負担して実施するのは全国的にも珍しいという。(山下葉月)
◆2020年秋から世田谷区で開始、社協負担は全国的にもまれ
 サービスは2020年11月から始まった。社協はスマホの貸し出しを行う一般社団法人と連携。初期費用と3カ月間の携帯電話料金約2万円を法人側に代理納付し、利用者がスマホを活用。これまでに22〜67歳までの男女16人が利用した。
 社協の職員は、相談に来た人が生活に困窮した背景を把握し、その人がどのようにスマホを活用すれば生活再建につなげられるかを考える。特にコロナ禍では、本人に働く意欲や職の経験があっても、解雇などで経済的に追い込まれるケースが増えている。生活保護に頼る前に、早期に立ち直れる人を後押しする狙いもある。
◆持たないこと自体のマイナスを解消
 社協によると、以前は手紙や公衆電話でやりとりをしていたが、本人との連絡に時間がかかって就職や住まいが決まりかけても逃してしまうケースがあった。さらに切実なのは、スマホを持っていないことを理由に断られるケースだという。担当の江口卓さんは「携帯を持っているのが当たり前の世の中で、面接で『なぜ持っていないの?』と不審がられることもある」と明かす。
 サービス利用者のほとんどが就職や住まい確保につながっているといい、各地から事業について問い合わせも来始めている。江口さんは「支援側からするとすぐに連絡が取れるのは大きい。仕事や家探しの『持たないことのマイナス』を埋められる」と話している。

東京新聞 2022年3月7日 12時51分
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