新型コロナウイルスのオミクロン株による感染「第6波」で、大阪府が発表する死者数に歯止めがかからない。新規感染者数の前週比が減少に転じた2月中旬以降も連日2桁に上り、人口10万人当たりの死者数は全国ワースト。医療関係者や専門家に聞くと、死者の大半を占める高齢者に関連した大阪特有の事情が浮かび上がる。

全国ワースト
府が第6波の始まりとする昨年12月17日以降、2月26日までに発表した死者数は計799人。厚生労働省の集計によると、全国最多で、2位の東京都(421人)を引き離している。

人口10万人当たりでも大阪が9・04人と都道府県別で1位となり、全国平均3・07人の約3倍。東京(3・00人)との差が際立つ。

一方、感染者の死亡率(2月26日時点)をみると、大阪は0・19%と全国平均(0・18%)並みで、吉村洋文知事は「医療レベルが低いわけではない」と弁明する。ただ昨年3〜6月の第4波や同6〜12月の第5波と比べて、母数の感染者数が急増して死亡率を押し下げている面もあり、東京はさらに低い0・07%だ。


第6波で府内の死者の9割を占めるのが高齢者。府は高齢者施設などへの支援策を強化しているが、それでも死者が続出している。吉村氏は高齢者と若者が同居するなど生活圏の近さが影響しているとの見方を示すが、「これが原因というのは、専門家も含めて分からない」とお手上げ状態だ。

施設の対応を調査
医療関係者はどうみているか。大阪府医師会の茂松茂人会長は「高齢者施設のクラスター(感染者集団)が一番の問題だ」と指摘する。

府によると、1月に42件758人だった高齢者施設関連のクラスターは、2月の17日間で107件1601人に急増した。オミクロン株による感染者急増に伴い病床が逼迫(ひっぱく)し、陽性が確認されても速やかに入院できない事情が背景にある。

実際、第6波で2月26日までに判明した死者799人のうち、重症病床に収容されずに亡くなったのは9割近い706人に上る。

ここには自宅・宿泊療養のほか、高齢者施設などで亡くなった人も含まれ、茂松氏は「高齢者施設で治療を受けずに亡くなるか、入院できても治療が遅れて最期を迎える事態になっている」と問題視する。

茂松氏によると、一口に高齢者施設といっても、施設ごとにコロナ対応には差がみられるという。

特別養護老人ホームや介護老人保健施設は介護保険法などに基づき、協力医療機関を指定する義務があるのに対し、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や住宅型の有料老人ホームについては、国が指針で指定を促すにとどまる。住居の提供が主目的であるためだが、有料老人ホームでも、介護付き施設は医療機関と連携している。

サ高住や有料老人ホームの数は大阪が全国最多で、大阪市内の有料老人ホームの7割以上が住宅型だ。

茂松氏は「感染判明後、早期に対応する施設もあれば、対策などが行き届かず処置が遅れる場合もある。高齢者施設で感染者が出た際の対応を行政がチェックする必要があるのではないか」と問題提起した。府は高齢者施設の対応を調査し、今月中旬をめどに調査結果を取りまとめる方針。

経済格差も関係か
大阪市立大大学院の城戸(きど)康年准教授(感染症学)は経済格差の観点から分析。城戸氏によると、英国の研究で貧困地域のコロナ死亡率は富裕地域に比べて約2倍高いという。


コロナ感染は人口が密集する都市部で拡大する傾向にあるが、厚労省の令和2年度統計で全国20の政令市のうち、千人当たりの生活保護受給者数が最多だったのは、大阪市で49人。堺市は30・2人で3位だった。貧困で身寄りも少なく、医療にかからない傾向があるとみられる。

城戸氏は「収入や教育など個人の社会経済因子が、健康状態や寿命の長さに決定的に関わる」との見解を示す。その上で一般論として「西日本の人は活発に動く県民性があり、コロナ感染に一定の影響を与える可能性はある」と指摘した。(尾崎豪一)

産経新聞 2022/3/5 06:00
https://www.sankei.com/article/20220305-I32HVOEHQNMSXFKFOGGQXBA3TI/