経済協力開発機構(OECD)のデータによると、日本の年間の平均賃金(2020年時点、1ドル=110で換算)は約424万円で、加盟35カ国中22位だ。米国はこの30年で約250万円増えるなど多くの国で賃金が上昇した一方、日本はほぼ変わっておらず、お隣の韓国(約462万円)にも抜かれた。なぜ、日本では賃金が上がらないのか。経済学者で政府の経済財政諮問会議の民間議員などを務めた伊藤隆敏・米コロンビア大教授に聞いた。

雇用維持優先し低賃金が固定化
 ――なぜ、日本では賃金が上がらないのでしょうか。

 ◆山一証券の破綻など1997年の金融危機で倒産が相次いだ際、労使ともに生き残りが最優先課題となりました。労働組合はリストラを防ぐことを優先して賃上げを要求しなくなりました。企業側もそれに応じ、雇用維持を図って賃金を抑えました。その後、景気は持ち直し企業業績も改善しましたが、企業は長期的に固定費の負担が増えるのを嫌い、一時的な負担で済む賞与で還元することを選びました。基本給を底上げするベースアップは避けたため、賃金の継続的な上昇が起きず低いまま据え置かれてしまいました。

 ――新型コロナウイルス禍前、人手不足が強く意識されていましたが、それでも賃金は上がりませんでした。

 ◆本来、人手不足で従業員を引き留めることが重要課題になれば、賃金は上がるはずです。新規採用でも優秀な人材を採用するには賃金を引き上げなければなりません。しかし、日本全体で賃金が低い状態が固定化されてしまったので、人材確保のために賃上げしようという動きが起きませんでした。企業は安い賃金で人を雇い続けられる状態となり、業績が回復しても利益を従業員に還元せず海外への投資に回し、日本では賃金が低いままになるという悪循環が生まれたのだと思います。

退職金はやめるべきだ
 ――日本の雇用制度も影響しているのでしょうか。

 ◆日本のような終身雇用制のもとでは、給料が高い成長産業へ人材の移動が進みません。米国では、不景気で解雇されても景気が良くなればまた同じ職場に戻ったり、良い仕事が見つかればそちらに移ったりします。停滞する産業から成長産業に労働力の移動を促すという意味では、米国型の方が良いでしょう。日本も、…(以下有料版で、残り1251文字)

毎日新聞 2022/3/14 05:00
https://mainichi.jp/articles/20220312/k00/00m/020/002000c