のちに韓国大統領となる若き日の金大中氏は1962年5月、前妻を亡くした後に再会した李姫鎬(イヒホ)氏と結婚した。翌春、ソウル・東橋洞(トンギョドン)に引っ越すと、夫は家の門に自分と妻の二つの表札を並べてかけた。自分の表札を注文している途中、ふと思い立って一緒に注文したのだという▲韓国は伝統的に夫婦別姓の国だが、それは結婚後も血縁由来の姓を変えないためで、当時、女性の地位は今と比較にならないほど低かった。夫婦の表札が門に並んでかけられた様子は、極めて珍しい光景だったという▲「妻が要求したわけではなく、私なりの女性の権利尊重の気持ちからやった」と著書で振り返っている。およそ四半世紀後、金氏らの尽力により韓国の国会では法改正が行われ、一家の家長である「戸主」を優遇した相続制が廃止になり、相続の際の男女差別が解消された。その後、民主化運動は、戸主制度そのものの廃止、戸籍制度の廃止につながっていった▲世界経済フォーラムの昨年のジェンダーギャップ指数で、韓国は156カ国中102位。依然、下位にあり、多くの問題を抱えているが、少しずつ変わってきた。ちなみに日本は120位だ▲日本では最近、高知県の女性団体などのグループが、県議34人を対象に選択的夫婦別姓への賛否を問うアンケートをしたところ、6割以上が回答しなかったという▲地方でも国会でも、政治家の役割は異なる意見や利害を調整し、問題解決を図ることだ。議論から逃げている場合ではない。

毎日新聞 2022/5/4 東京朝刊
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