日本の笑いを先導してきた吉本興業が、創業110周年を迎えた。その吉本を長らく引っ張るのが、1970年代から活躍する明石家さんまさん(66)だ。還暦の頃に引退を考えたと明かすが、今も第一線を走る。さんまさんの思う、吉本の強みとは、笑いの力とは――。吉本の本拠地・なんばグランド花月(大阪市、NGK)で話を聞いた。(文化部 池内亜希)

吉本興業創業110周年「劇場で芸人同士の絆が勝手にできる」
「娘には『泣くな、笑え』と言ってきた。泣いて悩むより笑って悩む方が数段楽ですよ」=加藤祐治撮影
 「俺は何度もやめようと思ったので、吉本にいる魅力はそうないけどね。ただ、劇場は吉本の強みでしょうね。劇場で先輩と後輩はつながる。先輩は道を作ってあげなきゃと思うし、その道に乗った後輩もまた道を作ろうと思う。芸人同士の絆が勝手にできる。仲の悪い人もいるやろうけど、笑いというゴールに向かうのは一緒」
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「僕は、舞台は100%テレビ中継しない。制限を守りたくないし、入場料払ってくれてるんやから、テレビでは見せられないものを見せたい。でも、舞台でも『これ言っちゃいけない』と思う芸人さんが増えた。会社からコンプライアンスと言われる今、正解なんですけどもね。舞台は生き物。僕らは師匠に『あのネタはあかん』と言われ、学んできました」
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「30歳頃、会社にやめると言いました。仕事はほぼ自分で取ってたし、ギャラに不満もあった。愛川欽也さんが冗談で『さんまちゃんの働きなら国立競技場三つ出来る』って。でも、『吉本にはさんまの看板がいるんや』と言われ、残った。今思うと、とどまって良かったけど、別荘があと三つは増えてたかな」
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「若い子には、出来るだけ道を作ってあげたいし、その道を走りやすいものにしてあげたい。所ジョージさんに『振り返ってごらん。誰もいないよ、同じ所をぐるぐる回っているんだよ』なんて言われもするけど、こういう姿もあるよと見せられたら」
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「実は、60歳で引退しようと思っていました。バラエティー見て、劇場行って、ゆっくり笑おうと。でも、爆笑問題の太田光に『格好良すぎる。落ちてく姿を見せてくれ』と言われ。じゃあ、落ちていくとこ見せるから続けようと。まだ笑わしたいという方が強いし、笑いを見る側で楽しむのは一生無理かな。今のテレビの状況を考えると、一番の夢は現状維持。現状維持ってすごく難しいんですよ。夢を追いかけるのは簡単なんやけどもね」

読売新聞ノンライン 2022/05/21 07:40
https://www.yomiuri.co.jp/culture/tv/20220517-OYT1T50113/