サッカー元イングランド代表でJリーグの名古屋グランパスでもプレーしたゲーリー・リネカー氏が10日、英BBCから人気サッカー番組の司会を降板させられた。BBCはリネカー氏がツイッターで発信した英政府の難民政策批判が「政治の中立性」を定めた指針違反にあたると説明する。だが、リネカー氏を支持するサッカー解説者たちが次々と番組出演を拒否するなど波紋を呼んでいる。

 発端は、英仏海峡を小型ボートで渡って来る移民らを英政府が不法入国者として排除する法案を7日に発表したことだった。難民として認定されるはずの人たちも排除しかねないと、この法案を問題視するリネカー氏はツイッターで、内務相の説明を「ひどすぎる」と指摘。政府の説明を旧ナチスドイツの論法になぞらえて痛烈に批判する発言もあった。

 リネカー氏の発言に、政権与党の英保守党から批判が相次いだ。BBCは10日の声明で、リネカー氏は「政治的問題で偏った立場をとるべきではない」と指摘し、発言が指針違反だと認定。SNSの使い方で折り合えるまで長年務めてきたサッカー番組の司会から外す意向を明らかにした。

 しかし、BBCの対応について、今度はリネカー氏と番組で共演する元サッカー選手のイアン・ライト氏やアラン・シアラー氏らがリネカー氏への連帯を示す形で番組に出ないと表明した。BBC元幹部も「彼の言葉は不必要に挑発的だったとは思うが、スポーツ番組の司会者が、プライベートでの発言までBBCの方針に縛られるべきなのか」と述べ、行きすぎた対応を牽制(けんせい)した。

 リネカー氏は1986年のワールドカップ(W杯)メキシコ大会に出場して得点王になった。94年にグランパスで現役を引退するまで計五つのクラブでプレーしたが、生涯、一度の警告処分(イエローカード)も受けなかったフェアプレーの選手としても知られる。(ロンドン=和気真也)

朝日新聞 2023年3月11日 13時27分
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