日本のロケット発射の「聖地」として知られる鹿児島・種子島。鉄砲伝来の地としてもなじみ深いが、そんなロマンあふれる島が悲鳴を上げている。きっかけは、今から半年前に始まったある工事だった。

 「朝、西之表港の近くに止まっている車のナンバーを見ると札幌、大阪、福岡……。全国から工事業者が来ている」

 種子島の玄関口・西之表港(鹿児島県西之表市)の現状に、種子島観光協会の酒井通雄(みちお)会長(60)は苦笑いを浮かべた。

 工事業者が向かうのは、対岸にある無人島・馬毛島(まげしま)(同市)。2023年1月から自衛隊の基地建設が始まっているからだ。西之表市は種子島北部と馬毛島からなり、馬毛島には西之表港から渡るのが一般的だ。

 馬毛島の基地建設を巡っては、長らく地元の賛否が拮抗(きっこう)。用地交渉の紆余(うよ)曲折もあり、構想浮上から16年後、ようやく着工にこぎ着けた。

 防衛省の資料によると、6月時点で種子島と馬毛島に滞在する工事関係者は約1300人。西之表市の人口(約1万4000人)の1割近くに上り、種子島はパンク寸前の状況だ。

 工事期間中に関係者が滞在できるよう、防衛省は馬毛島に3000室超の仮設宿舎を建設する予定。ただ、24年には滞在者が約6000人に達する見込みで到底収容できそうにない。

 「(種子)島に来て30年以上たつが、昨年末からの状況は異常です」。西之表市の不動産業、形岡ひとみさん(63)は驚きを隠せない。

 市内のマンションやアパートは全て埋まり、空き家だった戸建て住宅の家賃が相場の2~3倍の月10万~20万円に跳ね上がっても、すぐ借り手が決まる。作業員8人が住むための一軒家を、月額の家賃80万円で探している事業者がいたなどという話も耳にする。

 …(以下有料版で、残り1294文字)

毎日新聞 2023/7/15 06:00
https://mainichi.jp/articles/20230714/k00/00m/040/184000c