初版の巻頭には、"O dekassegui se aquece ao stove, supondo-o lareira"「デカセギ者はストーブで温まる、暖炉を想像しながら」という俳句がページの真ん中に、そして同じページの右下に次のような読者へのメッセージが綴られていた。

「デカセギ者と元デカセギ者、さらにはある日、夢を追ってここから外国に向かった全てのブラジル人へ。本来なら生まれた国にいながら果たされるべき夢を」

物語では頻繁にオリジナル曲が登場するが、中でも目を引くのは「Dekokôssegui」「デココセーギ」という曲である。kokôの発音(cocô)は、ポルトガル語で大便を意味する。デカセギ体験を他でもない「ウンコ」に喩えているのである。その歌詞を邦訳すれば、次のようになる。

「(ウンコ)コ、コ、コ、コ、コ、コ......
やっと気分がよくなった、下すことかできたので。
でも告白しよう、一分前は、泣いてしまった。
日本での就労に対するぼくの想いはといえば、
力を入れすぎて、臭くなって、手を汚す。
そして、あの冷や飯で我慢しなければならない。
母ちゃんがいつも作ってくれていたあの料理が
なんと懐かしいことか。
だから、ブラジルに戻りたい。そして、全てをアソコに放り投げたい...」

著者のサムに尋ねたところ、この歌詞は誰かが実際にカラオケで歌っていたものを書き留めたわけではなく、彼の創作である。

タイトルにしても歌詞の内容にしても、「きつい、汚い、危険な」3K労働に従事するデカセギ者の心情を、排便という比喩を通して強烈に匂わせることに成功している(なお、サムの作家論や作品論については、参考文献のイシ(2017)を参照されたい)。

アンジェロ・イシ(武蔵大学社会学部教授)


12/27(水) 17:57配信 ニューズウィーク日本版
https://news.yahoo.co.jp/articles/9a2cdaa99cb026b6b37044473c101f2488db16c9